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俺がそう言うと、伊春はかざしていた右手をゆっくりと引っ込め、その手の平で自分の顔を覆う。
そして、小さな声でこう言った。
「いや、本当にちょっと待ってくれる……?」
「あ、ああ。ごめん、急にこんなこと言われても迷惑だろうなとは思ったんだけど……」
「ち、違う。そうじゃないんだ」
そう言って、伊春は顔を覆っていた右手をゆっくりとおろすと……真っ直ぐに俺を見つめる。
その表情は、まるで今にも泣き出しそうな表情。伊春のこんな表情、初めて見た。泣きそうになるほど、困らせてしまったのだろうか。
「伊春……?」
「……僕はてっきり、尚にフラれるとばかり思っていたから……かなり驚いた……」
「え? お、俺から振るのは有り得ないだろ」
「……僕から振るのも有り得ないよ」
すると伊春は、泣きそうな表情のままーーだけど嬉しそうに、微笑む。
そして……。
「僕も、これから先の未来もずっと尚と一緒にいたい。尚と結婚がしたい。だから……これからもよろしくね、尚。ーー愛してる」
「あ、愛って……! ま、まあ、俺も愛して……うん」
「え、何? 声が小さくて聞こえなかった。もう一度言って」
「きゅ、急に顔近付けんな! 調子に乗るんじゃ……っ、ん……」
文句を言い切る前に突然唇を重ねられる。
目を瞑る暇も、なかった。
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