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 何故か、予想よりも反応があった。  蓮が、一瞬声を詰まらせたのだ。  咳払いし、直ぐに返事したが、目が少し泳いでいる。 「あんたが壊すとは思ってねえよ。うちの居候がな、あんたと会ったら、どんな反応するか不明なんだ」 「? 私を、嫌ってる人を、居候させてるのか?」 「……」  返答に困った蓮の代わりに、メルが首を振って答えた。 「嫌うと言うより、動揺しそうなんだ」 「……分かってんなら、せめて、家以外で会わせろよ」  つい嘆く若者に、メルは真顔で返した。 「何言ってんだ、分かってんだろ? あいつは、ミヤと顔合わせと聞いたら、逃げる。だから、知らせず会わせるのが、一番いいんだよ」 「……仕方ねえな」  溜息を吐き、蓮はようやく歩き出した。  山を登りながら、携帯電話を出して、誰かを呼び出す。 「……出ねえな。ちっ、また緊急案件が入ったか。間が悪いな」 「ん? 仕事があるのか?」 「仕事じゃねえが、昼から、会う約束がある」  メルの問いに何でもないように答え、若者は別な相手に電話をかける。  一言二言話し、すぐに電話を切ると、溜息を吐いた。 「駄目か。仕方ねえ、腹をくくるか」  何やら心に決め、蓮は足早に歩き出す。  ついたのは、昔懐かしい小屋の前だ。  少しずつ、古い部位は修理しながら住んでいる小屋は、意外に頑丈な作りに見える。  蓮は、小さな戸口に立って、中に呼び掛けた。 「おい、客が来た。茶を頼む」  気楽な呼びかけに、すぐに出て来たのは、長身の男だった。 「珍しいですね、初見の御客ですか?」  言いながら中から顔を出した男は、穏やかに笑いながら雅を見た。 「……」  雅の顔が、驚きで引き攣った。  対する男の顔も、笑顔が固まり、後ずさる。  よろめいて柱を攫もうとする男の腕を、蓮が寸前で捕まえた。 「これ以上、壊すんじゃねえ」 「す、すみませんっ」  我に返って謝ってから、男は蓮を見た。 「な、何で……」 「オレじゃなく、婆さんに訊け」  すがるような目がメルに移ると、女はしたり顔で言った。 「お前な、いつになったら、居候を辞めるんだ? いい加減、雅の元に戻らないと、迷惑なんだよ」 「だったら、前もって言ってくれよ。心の準備が……」 「心の準備? そんなもん、必要ないだろ。会えば後は、どうとでもなるんだよ」  胸を張った言い分に、男は困って固まったままの雅を見た。  上から下まで男を見て、再び顔を見上げた雅は、久し振りにその名を呼んだ。 「……エン、か? 本当に?」  答えられない男に歩み寄り、女は更に尋ねた。 「エンなのか、何で、ここにいるんだ? 私は、てっきりもう……」  その後の言葉が続かず、顔を伏せる女を見下ろし、エンは呟く様に答えた。 「すみません……」 「謝ってくれとは、言ってないっ」  着古された上着を攫み、雅は遮った。  混乱し、戸惑う二人の様子をしばらく見守った蓮が、頭を掻いて声をかけた。 「中に入って話そう。エン、茶と、昼飯の用意を頼む。ミヤ、そいつから話すより、まずは、そいつがここに来た経緯を、オレから話してやるよ」  その提案に、振り返った女の目は、恨みがましい。 「その話の後で、怒りでもなんでも、そいつにぶつけろよ。外なら、いくら暴れても構わねえから」  その目に笑いかけながら、若者は静かに促した。  こんな状況を作り出した者を思い浮かべ、毒づきながら。
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