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気がつくと、俺は大人になっていた。
ずっと憂鬱を引きずったまま。
するとは思っていなかった結婚をした。もののはずみということなのだろうか、そこまで浮ついた激情というものに突き動かされることもなく、いつの間にか伴侶ができていた。
そして子どももひとり。彼は誰でもあるような幼少期を経てそれなりに俺と伴侶の手を煩わせながら思春期を通過し、いつの間にか成人して家から出て行った。
幼心にあれほどまでに恐れていた数々の通過儀礼は、すでに過去の話になっていた、そして次に気づいた時には人生も半ば以上を過ぎていた。
誰かが言った。
人が抱える心配というものはいつも自分のコップをなみなみと満たしているものだ、と。
自分がどんな境遇であろうと、まわりがどんな状況であろうと、訪れる出来事がどんなものであっても、その人の不安や心配といった水源は枯れることなく、心の中の小さなコップにギリギリに水面を寄せているのだ、と。
いつもかすかなるさざ波を立てて。
俺のコップの海は今でもさざ波に震えている。
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