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さすがに今では電報は使わない。
俺は散々悩んだあげくに、こうメッセージを送っていた。
『チチキトク、スグカエレ』。
それまでまるっきり実家を顧みなかった息子が帰ってきたのは、まるまる5年ぶりだった。
「なんだ、元気そうじゃん?」
奴はすっかり伸びて目に被った前髪を片手で払いながらそう言った。
「送ってきたアカがアンタだったからおかしいな、とは思ったんだけど、もしかしたらお……」
そこで少しことばを切って宙に目をさ迷わせる。
「オフクロが代わりに送ったのかって思ったからさ、あわてて帰って来ちゃったケドさ」
仕事、忙しいんだろ? ようやく俺はそれだけ言った。
「まあね、ブラックだしね」
尋ねたかったことに自分から答える。
「カノジョってのも忙しいからなかなかできないし……だから当分はこのまんまだと」
いいよ、気にするな、と俺は片手を振る。
息子は自分の道を進んでいる、それでも少しだけ立ち止まり、ここに来た。
それだけで俺はじゅうぶんだ。
彼はまた目線を外し、窓から外をみる。
「まあ、二三日はゆっくりできるから泊まっていくつもりだから。オ……かあさんの下手な料理でも食って帰るよ」
そうして行きな、と俺は答えたのだろうか。
彼が去っていった病室はやたらにがらんと広く、何かの規則正しい電子音だけが俺の耳に届く。
ようやく、父の思いが分かった気がした。
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