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「石井だけじゃなくてさ、森本の名札も付きっぱなしだしさ」
星野は半身ひねって奥のロッカーの列を透かすように眺めて、今度は少し大きな声で言った。
明らかに、佐々木に話しかけているのだろう。星野と佐々木以外には更衣室に残っている者はいない。
佐々木はため息を吐き出すように答えた。
「森本はトンズラしただけだろう? 死んでねえって」
「でもさ」
星野は面白がっている口調だ。
「アイツの会社、アッチ系の派遣だろ?」
頬を軽く人差し指でこすってみせた。
「偉いさんの葬式にも駆り出されたって言ってたことあったぜ、駐車場誘導でさ。スーツとネクタイと何だかよくわかんないバッヂ貸してもらったって、で、黒塗りの車が何台も来て、おっかない連中がずらっと並んでいた、って」
「アッチ系でもソッチ系でも、トンズラはトンズラだろ」
「アイツ、影薄かったしな」
星野は全然、人の話を聴かない。相変わらず薄笑いを浮かべている。
「あの派遣、高速道路工事の方にもたんと派遣してたって言うから、おおかた人柱にされちまったんだよ、朝早く、プレハブ横づけのマイクロに集められてそのまんま現場に連れてかれて」
佐々木は黙ってジーンズに足を通し、ベルトを締めた。
案外、星野の言っていることが本当なのかも知れない、それでも、佐々木は真剣に受け答えすることもせず、ただ、黙って着替えを続けていた。
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