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工場の裏手にしつらえた喫煙所では、張りめぐされたビニルシートがバタバタと風にあおられていた。
辺りの闇にぽっかりと浮かぶオアシスにはすでにひとり、影が見えた。
「ヨーコちゃん、おつかれ」
灰皿の前の、まるまるとした小柄な女性が振り向く。
「今から千絵ちゃんとラーメン食べて帰るんだけど、トマスも来る?」
佐々木はあきれて口を出す。
「ヨーコちゃん、弁当食ったよね今日」
「もう三時間前だよ! おなか空くでしょ」
トマスはニコニコしている。ヨーコもトマスのお気に入りだった。
「だから体重減らないのよ、ヨーコちゃん食い過ぎ」
「トマスに言われとうないわぁ」
「夜中に開いている店なんてあるの?」
星野が聞くと、港の近くに屋台が来ているのだと言う。
「ササじいも食べていくんならボクも行くよ」
トマスのことばに、佐々木は苦笑する。「ないない」
煙草の煙を斜め上に吹き上げてから今度はヨーコに向き直る。
「ヨーコちゃん、それよか精密検査の結果出たんだろ? だいじょうぶなの」
ああ、とヨーコも同じように煙を吐き出してさらりと続けた。
「今度入院するんだよー、カガミーに伝えなきゃ。でも何て言われるか」
入院? と男どもは口々にどよめく。
どこが悪いのか、聞きたくもあり聞きたくもなかった。先月のいつだったか、青い顔をして食堂のテーブルに突っ伏していたのを一度目撃していたので、少し前から調子は悪かったようだ。
「だったらよけい、ラーメンなんてヤバいじゃんよ」
佐々木が言うと、ヨーコは楽しげに笑った。だってまだ食事制限されてないんだよ、お酒はやめてください、って言われてるけど煙草と食事はまだ、何も。そう言う彼女に
「そもそも煙草OKなんて言う医者がいるわけがない」
珍しく、星野がまともなコメントを述べた。
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