すでに死んだ奴の名札をロッカーから外さないのはなぜだろう

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 黄色い煙が排煙口からするすると引きずり込まれていく中で、工場内で時折聞く心霊現象の話になった。  いわく、目視の背後を誰かが通り抜けて行った感覚がしてふと振り返っても誰も通っていなかった、狭くて長い通路の向こうから呼ばれて行ってみたが人っ子ひとり見えなかった、食堂で急にコップがテーブルから落ちた、等々。  星野はそういった話がことのほか好きだった。先日あったばかりの新ネタですけど、と身を乗り出してくる。  ネタって何だよ、とヨーコに突っ込まれながらも、自分が二階の倉庫にひとりで入っていた時の話を始めた。  探し物をするために入った倉庫で、急に入り口のドアが音を立てて閉まった。すぐに開けられるだろう、と余裕でドアに手をかけた、だが、びくともしない。 「鍵がかかってしまったんだと思って……」  ふだんそこの二階には人が入らない。星野はたぶん、サボりに行ったのだろう。  大声で叫んだが人の気配が全くない。しかたなく、星野は倉庫にひとつだけついている小窓を開け、頭をできるだけ外に出して大声で助けを呼んだのだという。  たまたま交代で出勤してきた同僚に見つけてもらい、助け出してもらったのだそうだ。 「でも外から開けたら、鍵なんてかかってなくて、すっ、と開いたって」
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