2月の高尾山

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2月の高尾山

 新宿駅から京王線の特急で50分ちょっと。  「高尾山口駅」の木組みの真新しい屋根を抜けると、いよいよここがスタート地点。  2月の寒空、午前8時。気温は7℃。  ゴールは「高尾山」の山頂、標高599メートル。  空はどんよりと鉛色に曇っている。天気予報は晴れだったのに。   やっぱり家よりだいぶ冷えるな。 私はザックから、桜色のレインウェアジャケットを取り出した。 「雨じゃなくても、風を防いで防寒着になりますよ」ってお店の人が教えてくれたのを思い出したのだ。素早くはおると、風を防いでほんわり暖かい。  5分ほど歩くと、ケーブルカーの「清滝駅」に着いた。ケーブルカーに乗れば、高尾山の中腹まで運んでくれるらしい。  ……1人で初めての登山、やっぱりケーブルカーに乗った方が安全かな?  すっごく混むと聞いたから早起きして来たけれど、よく考えたら今はまだ冬。登山の格好をした人はいるけど、多いとまではいえない。  木々も葉を落とし、少し寂しい気がする。  空も暗くてなんだかひんやり背筋が寒い。 「今日は自分の足で歩くんだから」  とにかく登ろうと自分を奮い立たせ、「高尾山薬王院」と書かれた大きな石碑の近くにある、巨大な登山の案内図を眺めた。  高尾山の登山ルートは8つもある。事前にネットで下調べしていた。  初心者向けの1号路は、薬王院への表参道。途中でケーブルカーの終着駅と合流する。一番登山客の多いメジャールートだ。舗装されていてスニーカーでも登れるらしい。ここならいくら閑散期とはいえ迷うことはまずないだろう。  私は1号路の登山口を目指そうと、よしっと気合いを入れた。 「今日はけっこう寒いですね」  ふいに若い女の人の声がして、私はびっくりして振り返った。
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