2月の高尾山

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「それなら……ぜひ。実は1人でちょっと心細かったんです」 まさか、2人で登れるなんて。私は嬉しくなって、頬をゆるめた。まだ目が腫れているけれど、そういえば笑ったのなんて何日ぶりだろう。 彼女は、「紺野(こんの) 春香(はるか)」さん、という名前だそうだ。M女子大の3年生、登山部に所属している。服装の雰囲気からしてただ者じゃないとは思っていたけれど、登山部といえば山のベテランって感じがする。 山に登っているというのに、肌は白いし若くって、清楚な雰囲気を感じるのは女子大って聞いたからかな。 「私は、小野田(おのだ) 真希(まき)っていいます。春ちゃんって呼んでもいいかな?」 「もちろんです。私も真希さんって呼びますね」 ケーブルカーの清滝駅の左側に、稲荷山コースへの看板が立っていた。案内通り登山道に入ると、すぐさま階段が姿を現した。舗装されていない、丸太でできた土の階段。 一歩踏み込むと、登山靴の靴底がぐぐっと支えてくれる。これなら滑って転ぶ心配はなさそう。 「階段は、登り初めはキツいですからゆっくり行きましょう」 春ちゃんはさりげなくアドバイスしてくれる。 尾根を通るという、この「稲荷コース」。ちょっとだけ不安だったけど、春ちゃんと一緒なら心強い。でも私の方がずいぶん年上だし、甘え過ぎちゃいけないや、と思いつつも彼女の背中はたのもしかった。 「最初に高尾山に登ったのは、入学してすぐ大学の授業でした。高尾山に登ったら、体育の単位がもらえるっていうんで参加したんです」 大学ってゆるい所ですよね、と言って彼女は笑った。 1号路を頂上まであっという間に登ってしまって、先生や他の学生を待っていたけれど全然登ってこなくって、あんまりお腹が空いたから茶屋でそばを食べてしまったらしい。 急いで会計を終え店を出ると、みんなが険しい顔をして登ってきたんだって。その時、ああ、自分は登山が得意なんだなと初めて気付いたらしい。 「それからたくさん登りました、夏も冬も――」
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