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優しいあの子に祝福を____サーラside
※前話からざっと7年経ちました(流れ速い)
「ゲホッ、ごホッゴホッ゛…」
「母上……」
「だ、…じょうぶ……ゲホッ゛」
口の奥から生暖かいものがせりあがってくる。ぼやけた視界には、抑えた手から赤い華が咲いているように見えた
これは………もう無理かもな
あいつが言った通り。この屋敷の周辺は瘴気が溢れていて僕のような精霊、エルフなどの綺麗な自然を好んでいる種族が過ごすには厳しい、いや人間でさえ辛いのだから僕らにとってここは死地だ
しかもあいつのせいで瘴気の濃度が強いときた
いくらなんでも大精霊の子供である僕も10何年住むのが精一杯。…そのうち2年ほどは満足に運動できなくなっているけどね
今じゃベッドに縛り付けられてる感じ
まあそれほど悪影響というわけ
「……」
心配そうにベッドのすぐそばで膝をついている僕の可愛い子
魔族の成長は早い。前は膝に乗せて可愛がっていたのに、今じゃ屋敷の者から黒薔薇と称される美青年。
アイツと同じ髪色で、瞳で、肌色で……顔は僕と全く同じの愛しい子
アイツの血が繋がっている、の……?と言うぐらいに優しい性格
言い方がキツいときはあるけど、それは大抵アイツがいる時だけ。多分使用人の子達にとばっちりがいかないようにだと思う
ただでさえ他人がどうなってもいいのに、他種族で奴隷となってしまっている使用人なんて。すぐにでも始末できる、簡単にね
アズは本当に優しい子だ。この屋敷の皆、知っている
ちょっと引きこもりすぎだとは思うけど
「ごめ、……すぐ、良くなるか、ら……」
「母上、申し訳ありません。私聞いてしまったんです」
「…?………ッ!!」
まさか……あのアイツが僕の状態について話した時の奴か……?チッ、とことんアイツは疫病神だな
「屋敷周辺には母上には悪影響である瘴気が蔓延っていること。もう母上の体はボロボロとなってしまっていること。そして…それが私のためということも」
「あ、ズ……」
「あぁ、母上。私のためにこんなに労しいお姿になって……」
…ん?なんだろ、いつもと雰囲気が違う
「風邪だからすぐ治るなんて……嘘じゃないですか……母上……」
「………」
心配をかけたくなかった。言ったら多分、アズは僕のことで責任感を感じて何をしてでも救おうとする。たとえ自分がどうなろうと
だけどそれは僕も同じこと。だって僕お母さんなんだから
アズ、君は僕の可愛い子供。君はまだ守られてていいんだ
「………残念です…………母上」
ふわりと、花が咲くように笑った
一筋、目元からキラリと光が見えたのは気の所為かもしれない
「美しいまま眠ってください。ね?」
「!?……ア゛.…ガァッ゙……あ、ズゥ……」
苦しい。
息ができない。
苦しい、苦しい、苦しい
体が沼に捕われるように、ズブズブと沈む。
おそらく、魔族の十八番である闇魔法
…………アズ、ごめんね
本当はしたくないんだよね?
だって、……泣いてるんじゃないの?
見えないけれど、なんとなくそう思った
僕のためなんでしょ?
アズ、お前は優しい子だから
……ごめん、ごめんね。情けない母親で
こんなことさせて、胸に傷を刻むようなことさせて
ほんと、ごめん
どうか。優しいあの子に祝福があり
「マリー、早く…………アスモデウス、マリーはどうした」
「……母上には、眠ってもらいました」
空になったベッドの傍から離れ、魔性ともとれる笑みで相手を真っ直ぐと見つめる
「母上は病で体を蝕まれていた……なら」
「美しいまま眠ってもらうのが筋というものではないでしょうか?ねぇ、父上」
「……ククク、アッハハハハ!そうだな、アズ。お前の言う通りだ。美しいものは美しいままでいてもらうに限る。さすがは俺の息子」
「ありがとうございます」
帝王は息子の額にキスを落とすと、姿を消した。月光に照らされた部屋には、悲しそうにベッドを見つめ立ちつくす者だけが残った
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