降り積もり、そして隠せ

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降り積もり、そして隠せ

リチェは、包丁をベットに放り投げた。 包丁はスェハの足元に音もなく転がった。 もう動かなくなった肉片に。 そうした一因が傍らに皮肉のように、無造作に並べられた。 「埋めてあげましょうね」 囁いたリチェの声は甘くてどこまでもやさしい、母親が赤ん坊にうたう子守唄のよう。 リチェはスェハを広い庭の片隅にあるイチョウの樹の下に埋めてあげようと思った。 罪をかぶりたくないとか証拠隠蔽と言う考えではなく。 頭にふと思い浮かんだ、まだ幸せだったあの頃。 ただこの家を建てた新築の匂いがしたあの頃に、スェハがよくイチョウの木の下でレジャーシートを敷いて寝っ転がっていたのを思い出したたから。 秋口で寒いのにわざわざ外に行く夫にリチェはどうして?と聞いたはずだ、なぜわざわざ外に行くのかと。 答えは単純に「イチョウの葉っぱの間から垣間見える空が好きだから」だった。 あの頃、使っていたレジャーシートも引っ張り出してそれにくるんで、あの木の根本に埋めてあげよう、リチェは純粋にそうおもって、真っ赤かなまま物置へ向かった。 赤い雫が、滴り落ちる。 リチェの歩みを記すように。 秋になればひらり舞い落ちるイチョウの黄色すべてを覆いつくす。 じきに冬が来ても、秋が終わっても今度は雪がすべてを、すべてを隠すだろう。 愛と恋を降り積もったどす黒い感情が、覆い隠してし、行方をくらませたように。 木の葉と雪が、リチェの罪とスェハの罰を。降り積もり覆い隠すだろう。
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