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時計の針が夜の十時に差し掛かるころ、誰もいないはずの神社から、ごそごそとなにかが動く音がした。
真那は境内に立つ大木の影に身を潜め、音のする方を観察した。
なにやら賽銭箱の方から音がする。
「よっこらしょっと」
──なんですって?
真那は目を疑った。
声がしたと思ったら、賽銭箱の中から、袋を担いだ男がのっそりと姿を現したのだ。
長い間入っていたのだろうか、背伸びをし、あらゆる関節を入念にほぐしている。
──大胆不敵の極みだわ。
真那はその様子に、すべてを悟った。
男は賽銭泥棒、その手口は、大胆にも賽銭箱の中に入っておくというものだ。
この神社は、近所に住む神主が管理をしている。夜になると、特に警備をかけることなく帰宅する。
片田舎にある、普段はほとんど人が訪れることのない神社だったが、たまたま地元出身のタレントが訪れてから、ほどなくしてスピード結婚に至った。
以来、恋愛成就の神様がいるとして、一躍有名になった。
本来は、学問の神様だ。
しかしそんなことはお構いなく、毎日五円玉がこれでもかと賽銭箱に降りつもる。
真那は男の後を追うことにした。家まで着いていき、しばらくはそこに居座って、こってりと絞ってやるのだ。
参拝者には恋愛よりも学問を優先してほしいのが本音だが、それとこれとは別問題。
そのお賽銭は、自分のためのものだ。
この地域を守り、豊かな学問を普及させる神として、許すまじき行為である。
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