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「あんた、やっぱり賽銭泥棒ね!」
「いいや、真那ちゃん、それは違う。ちょっと借りただけだよ」
「あとで返そうなんて、泥棒の常套句よ!」
「違うんだ、僕は、ほら……」
男が賽銭の詰まった袋を揺らす。
チャリンチャリンという音が、真那の心の奥に響き渡る。
すると不思議なことに、真那の血液は再びさきほどまでと同じ、得体の知れない熱を帯びていく。
「なによこれ! なんなのよ、あんた。説明しなさいよ!」
「ごめんね、悪気はなかったんだ。僕の名はシレン。名前を漢字で書くと、至るという字に、恋と書くんだ。君と同じ、世代交代したての、新米の神様だ」
「……うそでしょ?」
「本当だよ。君も見たでしょ? 僕の御縁の力。あの仕事帰りの女性は、好きな人に想いを打ち明けるか迷ってた。僕は恋愛成就の神様として、この地域を見守っているんだ」
真那の脳裏に、セピア色の光景がよみがえる。
しかし、それで納得できるほど学問の神の脳は単純ではない。
「そんなの偶然かもしれないじゃない!」
憤る真那を前に、至恋は少し困ったような顔をして言った。
「……これは言いたくなかったんだけどさ。僕たち、普通に話してるよね。人間と神様だったら、無理だよね? こんなこと」
「くっ……だったら、なんで私の神社のお賽銭を盗む必要があるのよ!」
「それは、みんなが君の神社に行っちゃうからだよ。恋愛成就を祈願しにさ。僕は五円玉が無いと、御縁を振りまくことができないんだ」
「だから、それを泥棒って言うのよ!」
興奮を抑えきれない様子の真那とは対照的に、至恋は淡々と言葉を返す。
「いや、だから、真那ちゃん。借りただけだって。お賽銭がなくなったことなんて、なかったでしょ? いつも返しているんだ。君は寝るのが早いからね」
「そんな……それなら、えっと……」
「……じゃあ、返しに行こうか。今日も御縁を振り撒いたからさ」
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