かごの鳥

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 さて、猫である。  猫ほど狡猾で抜け目のない動物はいない。読者諸君は、この短い物語の最後で無垢な犠牲者を心から哀れむことだろう。  とある春の穏やかな午後。  屋敷の書斎、窓際には黄色いカナリアを囲った鳥かごが、天井から吊り下げられていた。カナリアはかごの中から虚しく空を眺め、時おり通り過ぎるハトやスズメやカラスのような平凡な鳥たちさえ羨ましく思うのだった。屋敷の主人(あるじ)はお出かけのご様子で、置いてきぼりにされたテリアがわんわん吠えているのが窓ガラス越しに聞こえた。  少しだけ開かれた書斎のドアの隙間から、1匹の猫が入ってきた。春になりすっかり用済みになった暖炉の前、お気に入りのソファーにひょいっと飛び乗ると、丸まってあくびをした。 「ねえ、猫さん」とカナリアは呼びかけた。 「ああ」猫は気のない返事をした。 「あなたは繋がれてもいない。閉じ込められてもいない。完全に自由なのに、どうしてここから逃げ出さないの?」 「何が言いたいんだ?」 「もし、私がこのいまいましい鳥かごから出られたら、大空を飛び回るわ」 「お前は鳥だからな」 「あなたは自由で、どこにだって行けるのに」  猫はゆっくりと尻尾を横に振った。 「いいか?自由っていうのは状況ではなくて権利なのだ」 「権利?」 「つまり、鳥かごがなければ、お前がその止まり木に同じように止まっていても、それは自由であるってことなんだ。大空を飛ぶことが自由なのではない。その気になったらいつでも大空を飛べる権利を有することが、自由なのだ」 「だからあなたは、いつもソファーで丸くなっていても平気なのね」 「おれを束縛するものは何もないからな。監獄の中でさえ、鍵を持っていれば自由なのさ。でも、もし宮殿にいたとしても、首輪に紐を付けられていたら耐えられないだろうな」
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