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カナリアは言った。
「この空間を満たす緊張感について、あなたはどう思う?」
「緊張感だって?こんなに穏やかな春の午後の、どこに緊張があるって言うんだ?」
「食物連鎖の上位にいるあなたにはわからないのね」
「おれが捕食者ってことか?」
「ええ、もちろん」
「おれは飼い主に餌をもらっている、洗練された家猫だよ」
「そうだけど、あなたの野生の本能は潜在意識下に残っているはずよ」
「今までだって、おれたちはいつもこの部屋にいただろう?何が違うんだ?」
「気がつかなくて?ほら、窓際に帽子掛けがあるの」
「ああ、あるな」
「さっき、メイドがお掃除するときに壁際から動かしたの。しかも、旦那さまのコートが掛けてあるわ」
「それがどうした?」
「あなたは敏捷な運動能力を誇るネコ科動物よね?つまり、あなたには収納可能な鋭い鉤爪があって、あのコートを足がかりに帽子掛けのてっぺんまで駆け登れるでしょう?」
「まあな」
「そこからこの鳥かごにジャンプするくらい簡単よね?」
「まあな」
「鳥かごは天井のフックに引っかけてあるだけ。あなたが飛びかかったら簡単に外れるわ。あなたは敏捷な運動能力を誇るネコ科動物だから、これくらいの高さから落ちてもくるって回転して着地できるでしょう?」
「まあな」
「でも鳥かごはグシャって壊れちゃう。あなたが私を捕まえるのは簡単よ。私はそれを心配しているの」
「そんなことは考えもしなかったが・・・」
猫はグッと背伸びをして、ソファーを降りた。
「まさか、あなた・・・」
「おれは、この空間の食物連鎖最上位にいる食肉獣で、捕食者の立場にあるってことらしい」
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