第一話 プロローグ

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第一話 プロローグ

         チロリン… 君の嘘から始まった     7年前のあの日から     僕の人生も、    そして君の人生も一変してしまった。  今、僕の携帯に届いたもの。それはたぶん…いやきっと出会い系からのもの。見なくても分かる。 僕にメールする人と言えば  バイト先の店長か出会い系しかなかった。 7年前、あの事件があってから  あんなに明るかった君から笑顔が消えた。    そして僕は学校へ行かなくなった。   自分の殻に閉じこもって外界と断絶した。 毎日、携帯電話相手に女の子との    嘘のやり取りだけが      僕の生きる(すべ)だった。 僕の携帯から出ていく嘘は    生きるのに不必要な二酸化炭素で   僕の携帯へ送られてくる嘘は     生きるのに必要な酸素だった。 熊本から上京して今年でもう3年。  人の人生なんて些細(ささい)なことで、本当に些細なすれ違いや、自分を守る為の嘘や、自分の気を晴らす為の利己的な行為でこんなにも変わる。他人(ひと)を思い()る気持ちを誰もが持てればどれだけ良いのか…。  築年数も()っていて賃料も安い6畳一間の安いアパートで携帯相手に酸素と二酸化炭素の交換をする日々。窓から見えるものといえば薄汚れたドブのような小さな川と春だけは綺麗に咲き誇る数本の桜だけ。 送られて来た出会い系のメールに固まった。あの日と同じくらいに。 ーーー初めまして。HIROMIと言います。          ひろみ…?  中学からこれまで7年ずっと忘れることができなかった名前に思い切り固まった。
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