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朝起きると親がテレビに齧りついていた。
「何観てんの?」
「ノブオも観なさい! 歴史的大事件よ!」
テレビでは宇宙服を着た人物が宇宙船のハシゴをゆっくりと下りていた。そしてゴツゴツした石ころだらけの乾いた地面に足を着いた。
「ウワー! ヤッター!」
お母さんは大声を張り上げた。宇宙服の人物は体を左右に揺らしながらゆっくりゆっくりと歩を進め、日の丸の付いた旗を地面に刺した。
「ああ、こんな日が来るなんて。生きていて良かった!」
「何これ?」
「何これじゃないわよ。初めて人類が月に立ったのよ。それも日本のロケットで日本人が! 素晴らしいわ!」
「初めてじゃないよ。前にも行った人いるじゃん」
「ノブオ……そんな事信じてるの?」
「学校で習ったよ」
「あれはヤラセよ」
お母さんはテレビから一瞬目を離し僕を睨んだ。
「あれはハリウッドのスタジオで撮影されたものなのよ。大体空気もない月に旗を立てて旗が揺れるわけがないじゃない。ほら、揺れてないでしょ?」
テレビの中の日の丸の旗は垂れ下がったままだった。
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