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1. 忘れていたもの
「姉ちゃんって、小説書いてるって本当?」
ベッドに寝転んで、漫画を読んでいる諒が唐突に呟いた。ギョッとして、スマートフォンの画面から目を逸らし、私は年の離れた弟の方を見る。でも、諒の顔は漫画の表紙に隠れて読み取れない。
「……趣味レベルだよ? それに最近忙しくて、もう書いてないけどね。それより、誰から聞いた?」
「姉ちゃんの彼氏」
「あんた達、いつの間に仲良くなったの?」
彼氏を一発殴る事を心に誓いながら、呆れた声で私は返した。
「それは別にいいでしょ。それより、どんな話書いてたの? ちょっと読ませてよ」
諒が漫画を少しずらして、窺うような視線で私の方を見る。
「ヤダ」
その視線を片手で払いながら、きっぱりとした口調で私は否定した。
「なんでさ。もしかして、過激な内容?」
「気持ちの問題。嫌なものは嫌なの。あぁ、それに諒くんの嫌いなジャンルだと思うけど」
その言葉に、諒は読みかけの漫画を床に置いて起き上がり、分かりやすく考えるポーズをする。でも、答えは出てこないみたいだった。
「何? 分かんない」
「ホラーっぽいの」
「姉ちゃんって、ホラーそんな好きだったっけ? 恋愛物とかの方が好きじゃないの?」
諒は私の部屋にある本棚に並んだ小説や漫画を指差す。
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