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3. コンプレックス
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。私の妹の名前、綾って言うんだけど。私たちはね、双子なの。だけど、あんまり似てなくてね。私は自然と姉妹で役割分担が出来ていると思い込んでいた。でも結局、上手くいってると思っていたのは私の方だけだったみたい。……だから、何を思って綾がそんな事をしたのか理解できないの。姉、失格でしょ」
私にも分からない。面白く出来るかもしれないと思って、こんな展開にしてしまったから。そう。だから、この話は宙ぶらりんのまま、止まってしまった。
秋山は黙っている。クラクションが鳴り、柩を乗せた霊柩車と親族達が乗ったマイクロバスが葬儀場から遠のいていく。視界の端で秋山が驚いた顔で私と車を交互に見ている。……私を見ている?
違和感を覚えて振り返ると、思ったより至近距離に秋山の顔があって、私は反射的に後ずさりした。でも、そんな事に驚いている場合じゃない。秋山の瞳に映る私は、ぶかぶかの制服を着た幽霊の少女の姿をしていたからだ。
「追わなくていいのかい? 何なら飛ぼうか? 俺は君ぐらいなら乗せて飛べるぞ?」
言葉が出てこない。秋山が心配そうに私を見つめている。心の中は、ぐちゃぐちゃで混乱しているのに、頭の奥底はやけにクリアで冷静に状況を見つめていた。
……私は今、『樹里』になっている。無意識に敷布団を探そうとする両手を静止して、アドリブで台詞を考える。彼女なら、なんて答えるだろうか。
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