1. 忘れていたもの

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「まぁね」  私は頷いた。 「じゃあ、なんでホラーなんて書いてるの」 「恋愛物って登場人物を全員ハッピーエンドに導くのって、結構難しいのよ。負けヒロインとか、悪役令嬢って言葉があるでしょ? 登場人物が多いと、どうしてもそういうキャラクターが生まれちゃうし。だからといって、全ての登場人物を終盤カップリングさせてると、本筋からズレちゃう。色々と制約があるんだから。その点、ホラーは気が楽なの。細切れに希望を匂わせながら、サクサク登場人物を退場させられるのは楽しいし。ちなみに物語上安全圏にいそうな主人公の恋人や、有能そうな右腕的存在を早めに殺すと、話に緊張感が生まれるわ。で、紆余曲折の末、多くの登場人物達の尊い犠牲の末に事件や呪いが解決したと思わせて、主人公達の知らない場所で何も解決していない事を示唆すれば、一応は物語として成立するの。それに恐怖の中にこそ、人間の本質が……」  そこまで言って、弟がぽかんとしているのに気付いて、私は口を(つぐ)んだ。
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