3. コンプレックス

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「……俺は小説なんて書いた事も無いし、君の抱える苦悩の半分も理解出来てないと思う。それに、言いたい事が何もないって言えば嘘になる。せっかくなら、もう少し格好良いキャラクターにして欲しかったとか、色々ね。でも、これだけは勘違いしてほしくないんだ。俺は与えられた役割だから、君のそばに居るわけじゃない」  そう言うと、秋山はしゃがみ込んで、私の目の縁に溜まる涙を拭った。 「俺は思うんだ。どんな事にも近道なんて、多分無いんだよ。生きていくのは、楽しい事ばかりじゃない。新しい事に挑戦すると、初めは失敗続きかもしれない。周りを見て、自分の事がちっぽけな存在に思える事もあると思う。でもさ、やっぱり君の物語は君にしか書けないんだよ。誰かが代わりに書いてくれるなんて事は無い。苦しい作業だ。時には、自分の事が嫌になる瞬間だってある。誰だってそうだよ。でも、俺は君の事も、君の描く世界も嫌いじゃない。短い時間だったけど、今日一日、君と一緒にいるのは楽しかった。恨んでなんかいないよ。……だから、いち登場人物として、ファンとして、君の書き上げる物語の結末を見てみたい。それが、俺の本心かな」
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