2. 無題

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 屋上に出ると空は雲一つない快晴で、近くの公園の桜が満開になっているのがよく見える。変質者はというと指揮者みたいに腕を広げて、屋上の真ん中で陽炎と共に揺らめいていた。男は少女に気付いた様で、振り向いて軽く手招きした。 「やぁ、遅かったね」 「話の続きをしましょう」  一定の距離を保ちつつ、彼女はゆっくりと近づいた。 「君、結構せっかちだな。自己紹介すらまだだってのに」 「……私は霧江樹里(きりえじゅり)。樹里でいいわ。明日から高校生になる筈だったんだけど。貴方は何て呼べばいい?」 「秋山。秋山慎太郎(あきやましんたろう)。さっきも言ったけど幽霊をやってる。死後2~3年ってとこだね。一応27まで生きたから……生きてたら、そろそろ30歳だね。現実は非情ダナ。まぁ、先輩として多少のアドバイスは出来るんじゃなかな。何か質問はあるかい?」 「その絶望的な服装は貴方の趣味? それとも、三十路(みそじ)の幽霊はそうなってしまうものなの?」  樹里は黒い羽マントを指差した。 「いきなり、ぶっこんでくるね、君……。これは、あれだよ……。烏のアレを食べ過ぎただけだよ」 「全く説明になってないんだけど」 「とにかく、ちょっと体調が悪いだけさ。皆がこんな格好じゃない。そこは安心していい。ところで、さっきは何処まで話したんだっけ?」 「私は死んだつもりが無いって所までかな」 「そうだったね」  秋山と名乗る男は頷いた。
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