2. 無題

4/7
前へ
/25ページ
次へ
「じゃあ、君はこの状況をどう考えてる?」 「悪い夢を見ているとしか思えないわ」 「もし、これが君の夢だと思うんなら、わざわざこんな」  秋山がマントを広げて様子を確認する。 「結構ひどいな……。こんなハイセンスでミステリアスな男に話しかける必要ある? 夢なら現実と向き合わずに、役を放棄して目が覚めるのを待っていればいいじゃないか」 「貴方は悪夢を見たとき、いつもそうするの?」 「例えばの話だよ。覚えてるほど悪夢ってものに接点が無かったしね」 「ふうん。私は夢だなって思うと、まず粗を探すの」 「粗?」 「現実との接点って言うのかな。違和感がある部分に注目するの。例えば、落下する夢を見たなら掌に意識を集中して、ある筈の敷布団を探すの。現実世界で布団の触感が感じられれば、夢は覚めるわ。息苦しい時は、現実で胸が圧迫されている可能性が高いから、胸の辺りを弄ってみるとかね」 「詳しいな」 「猫を飼ってるんだけど、寝てると登ってくるのよ。そしたら、大抵変な夢を見る事になるの」  ──この『猫』は、幼い頃の弟だ。実際は猫を飼った事なんてない。飼いたかったけど、お母さんが猫アレルギーだったから。 「ふむ。それでミステリアスな俺に白羽の矢が立ったわけだ」  秋山は右手の親指で自分の胸をトントンと叩いた。 「明らかに不審者だから」  樹里が当たり前でしょ?と言うと、秋山は大きくうなだれた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加