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デスワームによる大惨事を免れたバスィル辺境伯領。
砂漠に面した高い防壁を越えれば、一番大きな町サマクに入る。
ここに代々領主の住む城がある。
城と言っても、いざと言うときは領民共々立てこもることができる強固な砦といった様相の作りだが。
辺境を治める故に領主は辺境伯位を与えられ、軍を持つことを許されている。
砂漠に近く、この辺りの魔物は強い、環境は過酷だ。
領主は殆どをここで過ごし、領民の為の政をしていると思う。
税金だってそこまで高くないし、隣接する領とも友好。町は栄えているし、今回の様にデカイ魔物が現れなきゃ平和だ。
俺はこの町が好きだし、領主にも感謝してる。
だから軍に入ったし、危険な討伐隊に組み込まれても異論はなかった。
しかし、成体のサンド・デス・ワームが3体なんて、冗談みたいな状況には流石に参った。
そんで奇跡的に帰還してる自分が信じられなくて、まだフワフワしてる位だ。
四隊が報告に行った。そのうちこの二人をどうするか決まるだろう。
そう、この目の前の二人だ。
軍施設の一室で、俺は一人の若者と向かい合って座っている。そう、十代の若者だ。
フードマントとターバンをとった二人は俺を驚かせるに十分過ぎた。
そろそろ三十路にさしかかる俺の半分位の年齢の、若い青年。
柔らかい茶色の髪に、優しい顔立ち、身長は170と少しと言うところ。
細身だが、引き締まった体だ。
その少し後ろに姿勢良く立つのは、黒いロングワンピースに、白い前掛けエプロン。
いかにもなお仕着せ姿で、似合わない旅用のゴツいブーツ、惜しいっと、足元に目が行くのは仕方ない。
ピッチリと後ろでお団子にまとめられた黒髪に翠の瞳。
ピクリとも表情筋が動かないのは怖いが、どう見ても品のいいメイドさん、二十代前半かな、といったところだ。
とにかく、この二人が危険かどうか見定めなくては。
見た目はさておき、、、デスワーム2体を倒す力は看過できない。
正直、勝てる気がしないが、今のところ、好意的には、感じる。
俺は必死で笑顔を作り、話しかけた。
「俺はジークリフ。良ければジークと呼んでくれ。さっきは助けてくれてありがとうな。」
と言えば、深い碧の瞳をニコリと細め、青年は頷いた。
「ジーク、でぃすね。僕はドゥ。
こっち、タァナ。」
「えーと、ドゥに、タァナ、あってる?」
「あい。」
と笑顔で頷く。そこに悪意は全く見えず、ホッと胸をなでおろした。
発音の違いか、酷い訛にきこえるが、言語は同じようで助かる。
「お国は?どこから?」
「スェルラ王国。」
「スェルラ?知らねぇな。
ま、いいや、他国は間違いねぇな。
で、何をしに?」
「旅、仕事、探すに。」
「えーと、仕事を探して、旅をしてる、かな。逆か、旅をしていて、仕事を探してる、だな。」
ウンウンと頷くドゥ。
ナゾナゾだな、これ。
「どんな仕事を探してる?
高位魔法士ならこの国ではよりどりみどりだ。」
「コウイマホウシ?」
小首をかしげる。
他国には居ないのか?呼び方が違うのか?
「薬、売る。僕、薬屋。」
「ん?薬?」
背負っていた荷物をこちらに見せた。
いくつか引き出しを開けて見せてくれる。
「へぇ、薬箪笥か。行商しながら旅してきたのか。」
メイドがついてるってことは、いいとこのボンボンかなぁ、、薬問屋の息子?
メイドさんと駆け落ち?
とにかく会話がなぁ、、、
さて、どう報告するか。。。
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