12人が本棚に入れています
本棚に追加
降り積もる雪と、駿の大っきな手
バレンタイン数日前。
「雪予報出てる、傘持ってくのよ」
「はぁい、行ってきまーす」
駿は朝練(ない日でも自主トレで朝早く登校してる)だから、登校はひとり。
「駿ちゃん、傘持ってるかしら」
折り畳み傘を手にして、ママが玄関で見送ってくれる。
「一応持ってくね」
「気をつけてね、行ってらっしゃい」
ママから傘を受け取り、今年は駿にチョコどうしよう、って考えてた。
放課後。
雪降ったって部活あるからな、と、元気よくいつも通り部活に行った駿。
付き合ってる先輩、たまに駿の練習を見てて一緒に帰ってるけど、さすがに今日はいないのかな、なんて思いながら、図書室で係の仕事をしてた。
諦め悪いよね、あたしも。
空気がひんやり、冷たく変わった気がして窓の外を見ると、雪がちらついてる。
積もる前に帰ろうと、急いで片付けて帰り支度して昇降口に行くと、やーべ、もう無理、寒ぃ、とグランドから戻ってきた駿に出くわした。雪で髪も濡れてる。
「瑠羽じゃん、何してた、これから帰んの?」
「図書委員の仕事、降ってきたから早く帰ろうと思って。あ、ママから傘預かってきたよ」
「傘…さんきゅ、忘れてたわ」
震えながらシューズを履き替えて
「着替えっからちょい待ってて、つっても寒ぃよな、教室行こ」
教室に連れて行かれ、さっむ!と言いながら濡れたウエアから制服に着替える駿を待ってる。
小っちゃい頃から駿の裸は見慣れてるけど、後ろ向き。もちろん着替え見てない。
何これ…彼女でもないのに、諦めようとしてるあたしにどんな罰ゲーム?
「教室いても寒ぃな、悪ぃ、お待たせ、帰ろ」
「うん」
着替え終わって昇降口から出るときにはもう、うっすら雪が積もってた。
「やば、滑んなよ、てか俺もすべりそ」
「ちょっと怖いよね」
すっごく気をつけてるけど、滑りそうになる。
「きゃっ!…ふー、危なかった」
転びそうになってしゃがんだら、
「ん」
駿があたしに手を伸ばしてる。
「え?」
なに?ってキョトンとしてると
「転んだらケガしちゃうだろ、手ぇ出せ」
「…ありがと」
どうしよう、今、駿と手をつないで歩いてる。
小っちゃいときは手をつなぐなんてしょっちゅうだったのに、ドキドキなのが駿にバレちゃうんじゃないかって気が気じゃない。
また、つるっと滑って、駿がぐっと強く手を握ってくれてから、ますますドキドキ…ねぇどうしよう。
「…彼女いるのにいいの」
ぽそっと聞いたら
「そんなの関係ねぇだろ、つーか、もう別れた」
「え?また?早くない?」
びっくりして聞くと
「いいから転ばねぇように気をつけろ」
「うん」
駿はいつもの駿で、手をつないでるのは滑って転ばないように、っていう気遣いなだけ。
あたしは親友、家族みたいな存在って、勘違いしないように自分に言い聞かせてる。
「やっぱラクだな」
「え?」
「や、コッチの話」
降りが強くなってきて、駿はさっきよりも、ぎゅ、ってつないでくれてる。
駿の手、大っきくてあったかい。
「転んだら俺も一緒だぞ、でもきっと助けてやるからな」
「うん、あたしも助けるね」
「そんときは頼むな、瑠羽」
瑠羽、って呼ばれたら胸の奥がきゅん、てする。
気持ちの蓋、外しちゃおうか。それとも、まだしとく?
「よそ見したら滑るぞ」
「うん、気をつける」
降り続く雪の中、駿としっかり手をつないでる。
同じ場所に向かって、駿のあったかさをじーんと感じて歩いてく。
バレンタインチョコあげてもいいよね…
ずっと一緒にいられたらいいな、って思いながら。
最初のコメントを投稿しよう!