サッカーと料理、手芸と勉強

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サッカーと料理、手芸と勉強

小さい頃から足が速くてサッカー少年の駿は、手先も器用で、紙ヒコーキ作りが得意。サッカーの練習の後、日が暮れるまで一緒に飛ばしてよく遊んだっけ。 あたしは手芸とかが得意なインドア派。ちくちく縫い物しては巾着袋や小物を作るのが好きで、母の日や誕生日にママたちにプレゼントしてる。 こないだは、レースを挟んでキレイめな巾着袋を縫って、駿と一緒に焼いたクッキーを入れてプレゼントしたら、ふたりともすごく喜んでくれた。 駿には、好きなキャラのマスコットとかフェルトで作ってあげてる。さんきゅ、ってバッグにつけてるの見ると、喜んでもらえたかな、って、嬉しい。 食べることが好きな駿は料理にも興味があって、オムライスの卵、くるん、と上手に巻くの。何度も練習したって言ってた。あたしも練習したけど、あんなにきれいに作れない。 「RUU、って書いてみたぞ~」 「ほんとだ、うまいね~!ありがと駿」 「冷めないうちに食べよ」 「うん」 駿のにはSYUN、てケチャップで書いてある。 部活がなくても公園で自主練してる駿、疲れてるだろうけど、世話になってるお礼、って、今みたいにときどきご飯作ってくれるの。 駿は料理が好きみたい。気分転換にもなるんだって。おいしいし、すごく助かる。 クッキー作りも駿の提案で、あたしは駿に言われるままに量ったり混ぜたりしてた。教えてもらってこねて型抜きもしたけど、お菓子作りは苦手かなぁ、そんなに楽しいと思えない。駿は楽しそうにしてたけどね。 勉強は駿よりもあたしの方がはるかに得意で常に学年上位(もちろん努力はしてる)だけど、ご飯とかお菓子作りは駿の方が上手。 ふたりで足して割ったらちょうどいいわね、ってママたちによく言われる。 なぜって、駿は教科書開くと眠くなっちゃうみたいで… 小学校の頃はまだ何とかなってたけど、中学生になったら予習復習は当たり前、なのにろくにやんないから理解が追いつかない。せめて教科書読みなよ、って言っても、部活で疲れた、眠ぃって理由つけてサボるから、ますます成績低下するのは当たり前のこと。 なんて正論を駿に言っても聞く耳持たず、試験前になるとあたしに泣きついてくる、というのはちょっと大袈裟だけど。 「駿、ちょっと駿!」 「…んぁ?」 「もう~寝てないで読んで、読まないと進まないでしょ、この単語の意味は?」 「ん、っと…」 これだもん、いくら料理ができるようになったって、学生の本分は勉強なんだから世話が焼ける。だってまだ中一なのにつまづくって、この先思いやられるよ… 「ね、駿」 「あー?」 「駿はサッカー好きでしょ、試合もよく見てるじゃん、現地の中継見てるんじゃないの?」 「見てる見てる、当たり前だろ」 「それってスペイン語やロシア語でしょ」 「だな~、よくわかんねーけど、サッカーだから雰囲気で、ま、試合みてりゃわかるっつーか」 「スペイン語とかよりは英語の方が簡単だよ、それに英語わかった方が、もっとスペイン語…中継見ててわかるようになるんじゃない?」 「おー、なるほどな、確かにそんな気ぃするわ、ん、英語がんばるよ、瑠羽頼む、教えて」 やっと少しやる気になってよかった。けど他の科目をやる気にさせる動機付けはどうしたらいいんだろ…って、なんであたしが駿の家庭教師みたいなことしてんの~ 「瑠羽って説明うまいよな、すげーわかりやす」 「それほんと?テキトーに言ってない?」 「マジだって、先生よりもわかりやすいもん、数学も理科もマジ助かる」 「あのさー、教科書読んでくだけでも違うんだからね、サボんないでやんなよ、そしたらもうちょっとラクになるのに」 「勉強でラクなことなんてあんのかよ~」 「あるよ、サッカーと同じでしょ」 「は?どーいうこと?」 「毎日少しずつやらないと、腕が落ちるってこと」 「サッカーって脚だけどな」 「くだらないこと言ってないでさ、理屈はわかるでしょ、サボったツケの怖さとか大きさとか」 「まーな、わかるよ、ケガしたら取り戻すのすげーきちぃから」 「でしょ?勉強もおんなじ、特に苦手なのはやっと覚えても忘れるのも早いからね、繰り返すことがコツなの」 「繰り返しか~、いっちばんだりーヤツじゃん」 「そうよ、そのダリーのをやってれば忘れるスパンが短くなって、思い出す時間が減るから先に進める、ってことなの、つまり努力は続けてこそ意味があるの、わかるでしょ」 全く、人の話を聞いてるのか聞いてないのか。 「とにかく!今はよくてもこの先困るのは駿なんだからね、頑張りなよ」 「俺には瑠羽がいるからなー、困るっつっても困んねっていうか。瑠羽も、俺いたら助かるだろ?」 もーっ、なんで勉強の話からそんなにそれちゃうかな。 ていうか、俺には瑠羽がいるから、って言われるとくすぐったいんだけど… 「助かるよ、助かるけど、もうっ、この問題解いて」 「なに怒ってんだよ」 ダメだー、駿にはあたしの気持ち、全っ然伝わってない。 でも…伝わると困る気持ちもあるから、これでいいのかな。
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