小5のときの事件

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小5のときの事件

やんちゃで人懐っこい、幼稚園の頃から人気者の駿は、サッカーをやっていたこともあって、小学校の運動会では常にリレー選手。アンカーに選ばれるし、マラソンもトップクラス。気づけば人気はうなぎ登り。 運動が不得手なあたしは俊足がすごく羨ましくて、走ってる駿がキラキラ輝いて見えて、そんな幼馴染は自慢。 駿は好きなことをしてるから楽しくて、カッコいいね!と周りに言われても、好きなだけなんだよな、って言ってて、それがまた女子の心をくすぐってたようで。 小5のとき、駿くんと仲いいのズルい、彼女でもないのになんなの、ちょっと勉強できるからって生意気、と女子に囲まれたことがある。 その中には、幼稚園から一緒で、うちらの家庭事情を知ってる子もいたけど、言われるままついてきたのかバツが悪そうな表情してる。 誰も味方なんていなくて、あたしってそんなふうに周りから見られてたのか、信用とかないんだな、女子の友だちすらいないのか、って初めて孤独を感じた。 その子たちひとりひとりを見てると、他クラスの子も含めて大半が連れてこられただけのようで、なんなのこの子たち、めんどくさいと思ったし、大人数に囲まれたことなんてないから恐怖も感じてた。きっと、何をどう話したところで通じない。 こういうときはどうすればいい?と思いながら、それぞれ家の事情ってあるでしょ、産まれる前から駿とは一緒で、と言いかけたら、ひとりの子が真っ赤な顔して近づいてくる。 もしかして殴られる?!と冷や汗かいたところに駿が通りがかって 「何してんの、瑠羽どした?」 と、あたしを囲んでる子たちの人数を数えながらそばに来た。 「20人で瑠羽に何してんだよ、どー見てもイジメてるとしか思えねーけど」 駿は、あたしに近づいてる子をジロッと睨みつけて 「瑠羽が何した、こんな大人数に囲まれるほどのことしたのか?」 「え、あの…」 「何だよ、答えらんねーのかよ、何もしてねーのにどういうことなんだよ、つーか、こんなことされて、瑠羽が今どんな気持ちなのか考えてみろよ」 「…瑠羽は別に…悪くない」 「は?ふざけてんのかお前」 駿が本気で怒ってるのを初めて見た。 「ごめんなさい」 駿の気迫に負けたのか、素直に謝ってる。 「誰に謝ってんだよ、ちゃんと目ぇ見て言えよ、ほんっとに悪いことしたと思ってんのか?」 「…ごめん瑠羽、瑠羽なんも悪くない、あたしが…」 その子、泣き出しちゃった。 「泣くなんていっちばんずりぃヤツだろ、泣いて許されると思うなよ。お前らも」 周りにいる子たちを怖い顔のまま見回して 「俺の大事な瑠羽に何かしたら、いや、何かしようとしたらぜって許さねーからな、覚えとけ」 しーんとして誰一人何も言わないから 「20人もいて返事もできねーのかよ、何なんだお前らサイテーだな」 吐き捨てるように駿が言うと、ごめん、ごめんね瑠羽、ってぽそぽそ聞こえだした。 「先生がいつも言ってんだろが、謝ったって心に受けた傷は消えねーんだぞって。ちゃんと話聞けよ、ったくふざけんな」 駿はまだカッカしてるけど、駿のおかげでやっと少し落ち着けたから、この子たち、あたしが駿と仲いいの気に入らないんだって、と小声で言うと 「そんなこと言われてもさ、みんな事情ってもんあんだろ。俺ら双子みたいに育ったんだぜ、家族みたいなもんなんだから仲いいの当たり前だろ、俺の大事な瑠羽いじめんな」 駿の一蹴でその後、妬まれてる感じはしても、誰も何も言ってこなくなった。 あのときはほんとに助かった。駿がたまたま通りがからなかったら何されてどうなってたか…思い出すと今でも吐き気がするほど不愉快。 確かにあたしと駿は、双子みたいに育ったし、家族みたいなもの。だから仲がいいのは当たり前。駿にそう思われてるってことは…それだけ、ってことよね。うん、わかってる。 だから、俺の大事な瑠羽いじめんなよな、と助けてくれた駿に、幼馴染以上の感情を持ってることに気づいてるけど、その気持ちには蓋してる。
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