魔法使いと2人の少女

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「あるAちゃんという女の子がいました。不治の病にかかっていてあと数ヶ月しか生きられないAちゃんは、自分がいなくなった後、優しい両親が悲しまないために誰か代わりがいればいいのにと考えます。そんな時、あるところに自分の人生が嫌で別人になりたいと願う女の子、Bちゃんがいました。本来なら出会わなかった2人を引き合せたのは魔法使いでした。Aちゃんは、自分が死んだら自分の居場所をBちゃんに譲ると言いました。でも、Aちゃんを愛する両親が、自分たちの子じゃないBちゃんを愛するはずがありません。Aちゃんの友達も同じでしょう。そこでまた、魔法使いの出番です。Aちゃんの両親と友達、そしてBちゃんとBちゃんがこれまで関わった人達の記憶をまるっきり変えてしまうんです。そうすればBちゃんは初めからAちゃんとして生きていたかのようになります。誰も本物のAちゃんがいなくなってしまったことには気づかず、誰も悲しまずに済みました。おしまい」 あまりに非現実的で幼稚で、まるで児童に読み聞かせるような話。私は馬鹿にされているんじゃないかと眉をひそめた。 「この例で言えば、Aちゃんは君を求める人、Bちゃんは君、魔法使いは僕です。まとめれば、この世界からいなくなった人、これからいなくなる人の空白を埋めるってことなんですよ」 「ことなんですよって.......。人の人生を乗っ取るのと同じじゃないですか。Aちゃんが可哀想すぎる。初めからいなかったことになるなんて」 空想話の登場人物に同情するなんておかしいが、仮に本当の出来事ならあまりにも切ない。いなくなった人や死んだ人はいつか忘れられるにしたって、これじゃ酷すぎる。 「もちろん、Aちゃんが望まなければ成立しない話です。勝手に乗っ取るわけじゃありませんよ」 「でも結局はBちゃん自身がこれまで生きてきた記憶も失われるわけですよね? Aちゃんとして生きてきた嘘の記憶がある、それって、どうなんだろう」 「考えてみてください、Aちゃんを失った両親が悲しみのあまり後を追ってしまったら、AちゃんになれないBちゃんが自分の人生を嘆いて死を選択したら、誰も幸せになりません。嘘でもいいじゃありませんか、皆生きていて幸せになるんだから」 双方の望みが叶い、利益になる。それでももやもやは消えなかった。Aちゃんを覚えている人はいなくて、生きた証もない。それじゃ何のために生まれたのだろう。 宵ノ口さんはビジネスバッグからタブレットを出して操作した。表示した画面を見せてくる。 「僕が君を助ける方法です」 そこには目がくりっとしてほっそりとした顔の、可愛い女の子が映っていた。 「不治の病にかかっていてあと数十日しか生きられない女の子です」 宵ノ口さんが言う前に、画面を見た時から何となくわかっていた。 例え話なんかじゃなかった。彼は、これから起こるであろう未来の話をしていたのだ。 「この子は自分がいなくなった後の、空白を埋める女の子を求めています。Bちゃんとして、この子に会ってみませんか?」 吸い込まれそうなほど綺麗な目は、私の人生を心の底から心配しているように見えた。 私がこの子になったら、お父さんは私のことを忘れてしまう。けど、私のためにあんなに働かなくていいし、いじめを知って悲しまなくて済む。 私がいない方が、きっとお父さんも幸せになる。どこかの女の人と再婚して、新しい家族と暮らせば、寂しくないはずだ。 そうか、これは私のためでもありお父さんのためでもあり、この画面の女の子のためでもあるのか。 変なの。さっきまで嫌悪していたのに、今は誰かを救えるなら良いかなって開き直っている。 ひょっとしたら宵ノ口さんは本物の魔法使いなんじゃないかと思った。きっと魔法を使って、私を頷かせたに違いないんだ。
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