10人が本棚に入れています
本棚に追加
身の上話をするのはこれで2人目。自分のことを教えるのって難しい。
それでもたどたどしく、焦れったい喋り方で頑張って話した。話している間、沙羅さんの目を1度も見ることができず下を向いていた。途中で欠伸が聞こえたり、中断の声が入ったら話すのをやめようとしたけど、そんなのは一切なくて結局最後まで伝えられた。
終わってからもしばらく俯いたままでいた。沙羅さんの反応が怖い。きっと私の悩みなんて大したことない。
それだけのことで人生変えるの? あたしは生きたくても生きられないのに。そんな辛烈な言葉を浴びせられる覚悟をしていた。
ストローで氷を回す手元が見える。カランと涼しい音がしてから、彼女は言った。
「何も悪いことしてないのに、酷いこと言われたり暴力振るわれたり、怖かったね。ある意味青葉ちゃんも病気に苦しめられてたんだよ」
「病気、ですか?」
恐る恐る顔を上げる。沙羅さんの大きな目と合った。
「うん、人を傷つけたい気持ちになる病気を持った人に傷つけられたってこと。そういう病気はいっぺん自分も同じ目にあわないと気づかないし治らないからね、難病だよ。でも本当、よく頑張って耐えた。今日こうしてあたしに会いに来てくれて嬉しいよ、ありがとう」
その優しい声に、目元がじんわりと熱くなる。頑張ったと誰かに認められることが嬉しかった。
沙羅さん自身の方が大変な状態なのに、私を気遣って1番欲しい言葉をかけてくれる。なんて儚くて素敵な人なんだろう。
あいつらによって汚れた心が浄化されていくのを感じた。
「うん、合格。青葉ちゃんにならあたしの人生引き継いでもらえるかな。安心したらお腹空いたかも」
沙羅さんはチョコレートパフェを頼んだ。お腹が空いているのなら、普通は口の周りをチョコだらけにするほど頬張るイメージがあるが、沙羅さんの場合はやっぱり少しずつゆっくりだ。だから口周りを汚さず、綺麗に上品に食べていた。
「うーん、半分くらいが限界かな。良かったら半分食べない?」
「いいんですか?」
「あたしの病気はうつらないから大丈夫だけど、潔癖を気にするなら残すよ」
「いえ、気になりません。いただきます」
残ったパフェをもらって食べる。久しぶりに食べたパフェは美味しかった。なんていうのだろう、同い年の女の子とこうしてお菓子を半分こずつ食べるのが初めてで、なんだかむず痒い。
心から信頼できる友達がいる子は、こんなこと日常茶飯事でいちいち意識しないだろうけど、私にとっては新鮮だった。
「もし、私が沙羅さんになったら、今日のことを忘れちゃうんですよね?」
「そうだねぇ、人生バンクの説明じゃ、人生を譲った瞬間に関わった人達の記憶が改ざんされるみたい。元々あたしも青葉ちゃんも最初からいない存在になるけどそれは仕方がないと思うよ。全部が全部上手くほど甘くないもん。どの道死んだらいつかはあたしを覚えている人は完全にいなくなるだろうし、ただそれが早いってだけのことだよ。だからね、今日は青葉ちゃんにあたしの願い事を叶えてほしいの。あと少ししか生きられない、残念な女の子の頼みだと思ってさ」
最初のコメントを投稿しよう!