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白く痩せ細った右手が私の方に伸びた。どこかで見た、白くて綺麗な名前の知らない花に似ているその手を、そっと掴んだ。ひんやりと冷たかったけど、胸の辺りが温かくなるのを感じる。
こんなにも私を必要としてくれる。いじめられっ子で何もできない自分が、誰かの役に立とうとしている。生きていて良かったと大袈裟になるくらい、それが嬉しかった。
でも、いつかこの気持ちも忘れてしまうんだろう。
どういうしくみか自然と彼女の記憶が引き継がれ、私自身が沙羅さんになりきってしまう。人の人生をもらったことなど忘れて、のうのうと生きていくんだ。
レストランで呑気に食事をする周りの人達はそれを知ることはない。知ったとしてもこんな話信じてもらえないだろう。このテーブル席の空間だけが別世界にいるような感覚がした。
沙羅さんは体が消えて、私は心が消えてこの世界からいなくなる。性格も生い立ちも違う私達は運命共同体にある。
ならば私も、私と別れるまでの時間を大事に過ごそうと思う。
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