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「誰にも言うなよ! 言ったらもっと酷いことしてやるからな」
「大丈夫だ、ばい菌だから喋れないだろ」
「そうだったな! わはははは!」
3人は笑いながら倉庫の扉を強く閉めて出て行った。
わはははと笑う声が遠くへ消えていく。
耳鳴りがするほどの静寂と、牛乳と埃の臭い。
独り取り残された私はコンクリートの床に額を押し付けて、蹲りながらしばらく動けなかった。
体調が悪くて吐いたせいでこんな目にあうなんて。これほどの仕打ちを受けるほどの罪を犯してしまったのか。それに女子1人に対して男子3人がかりでくるのは卑怯極まりない。私の力ではやり返す術もない。生まれて初めて性差を憎んだ。
先生に言ったら、いじめはなくなるのかもしれない。でも、警告された通りもっと酷くなるかもしれない。もしかしたら殺されるかも、そんな恐ろしい想像だけが莫大に膨らんで、結局相談することができず黙って過ごすしかなかった。
「おかえり青葉」
くたくたで家に帰ると、お父さんが夕飯の支度をして待っていた。
「また体操服のまま帰ったのか」
朝は制服で登校したのに、帰りは体操服を着て帰ることの多い娘を不思議がっている。
「うん、友達と運動してまっすぐ」
「わんぱくだなぁ。お母さんに似たのかな」
「お風呂に入ってもいい?」
「ああ、ちょうど沸かしたところだ。髪がびっしょりだな」
「すごく汗をかいたんだ」
「そうか、お父さんはあと30分したら夜勤に行くから、夕飯は残さずちゃんと食べるんだぞ」
「わかった」
牛乳臭い制服を体操着袋に詰め込んで、急いで脱衣所に行く。素っ裸になって制服と一緒に風呂に入った。洗剤でごしごし手洗いして、ドライヤーで乾かしてしまおう。もう一着あるから明日はそれを着て…。
途端、制服を持った手がガクガクと震え始めた。
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