魔法使いと2人の少女

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明日が怖くてたまらない。 ざぶんと湯船に潜り込む。外の世界と遮断したい。何も見たくないし何も聞きたくない。お湯の中は温かくてごうごうと水の音だけがした。胎児のように丸まって静かに浮いているのが、とても安心した。ずっとそうしていたかったが、息が苦しくなり静寂の世界から大嫌いな世界へ再び顔を出す。 風呂からあがるとお父さんはすでにいなかった。仕事へ行ったようだった。自転車を漕いで10分くらいの場所にある工場で働いている。ろくに休まず、車の部品を夜な夜な寝ずに作る姿を想像するときゅっと心臓が萎む気がした。 和室にある小さな仏壇に手を合わせる。仏壇の上にはお母さんの遺影が飾られている。一昨年に脳出血で倒れて、すぐに死んでしまった。本当にあっという間だった。 あっという間だったから、痛くなかったかな。そうだといいなと今でも時々考えて祈っている。 今はお父さんと2人で暮らしている。裕福ではないがお父さんは私に不自由をさせないよう朝から晩まで働いてくる。それに答えて一生懸命に勉強を頑張り学校も休まないようにしている。例え、死にたくなるような嫌なことがあっても相談せず我慢した。お父さんにこれ以上負担をかけたくなかった。 この時は、自分の世界というものが学校だった。世界が広いことは知っていたのに、学校という四角くて冷たいコンクリートでできた建物が、全てなのだと勘違いをしていた。国語の先生がいつか言っていたことわざ、井の中の蛙ってこういうことを言うんだろう。蛙は毒の水に浸っていたら狭い井戸の中で死んでしまう。ニュースでそう歳の変わらない子が自ら命を絶ったことを知ると、気持ちがよくわかる。 他人事じゃない、周りが毒だらけなら、いつか学校の中で死んでしまう気がした。 気がした、でおさまればいいものを自分の存在価値はあいつらにえぐり取られて、どんどん心が蝕まれていって死にたくなった。 少しだけ、天国にいるお母さんが恋しくなった。 しかし、今死んでお父さんを独りにさせるのも嫌だったし、どうせあいつらは大人になったらきっといじめのことを忘れるに決まっている。そうしたら犬死だ。それに標的を変えてまた別の子をいじめるかもしれない。 辛いのに逃げられない。陸の見えない海の真ん中で溺れているような現実。どうしていいのかわからなくなっていた。
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