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あまりに決断しないのでつい口を出してしまった。私の小さな声を彼は聞き逃さなかった。随分耳がいいようだ。
「いけない、また優柔不断が出た。そうですね、バスに乗った方が楽で速い。うん」
瞬間移動のような速さで彼は私の正面の椅子に腰掛けた。余計なことを言わなきゃ良かった。せっかく独りで落ち着いていたのに。
彼は時折首を傾げてため息をつく。さっきまでの私のようにお腹をしきりに摩っていた。
「.......どこか悪いんですか?」
あからさまに困っていたので声をかけてみた。
「うん、腹が減って仕方ないんです。何せ昼飯のおにぎりを食べようとしたらカラスにとられてしまって。コンビニを探し回ったけど周りは田んぼだらけだし、携帯の充電は切れるし。行き倒れそうになった時、この停留所を見つけたんです。ようやく光が見えてきました」
ぐーとお腹の音が鳴ると、彼は恥ずかしそうに頭を搔いた。
変わった人。悪い人には見えないが一応距離をとっておこう。
「あの、これ良かったらどうぞ」
鞄からあんぱんを出して渡す。彼はきょとんとした顔であんぱんと私を交互に見た。
「あ、あとこれとこれも」
デザートのゼリーと大嫌いな牛乳もあげてしまう。どうせ食べずに捨てようと思っていたからちょうどいい。
「これ、いつも持ち歩いてるんですか?」
「違います、今日の給食に出たやつです。いりませんか?」
「いえ、ありがたくいただきます」
彼は深深と頭を下げて無我夢中に食べ始めた。よほどお腹が空いていたようだ。
お腹が満たされればコンビニに行く必要もない。食べ終わったら彼はどこかに行って、また1人で落ち着ける。まだ蹴られたお腹が痛いから横になって休みたい。早くいなくなってほしい。
「お腹が痛いんですか?」
はっとして顔を上げる。彼は心配そうに私を見ていた。どうして痛いことがわかったのか不思議だったが、私は無意識のうちに手でお腹をおさえていた。だからわかってしまったのだ。慌ててお腹から手を離す。
「いえ、大丈夫です」
「でも辛そう。もしかしてこれ、給食で食べられなかったやつじゃ?」
「大丈夫ですってば!」
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