本の虫のための

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 それから約2ヶ月ほど経った。  あの3万円の作品以降、出てくる金額は1000円、2000円程度。多くて5000円。  なかなか大きい金額が出てくることはなかった。   「いっそ電子書籍化して収入を得ようか……」  あの3万円の報酬があった話なら、買ってくれる奴もそこそこいるだろう。  そんなことを考えながら、気晴らしにSNSを眺めていた。 『小説のコンテストで大賞を貰いました!』  創作アカウントで繋がっている奴だ。前に一次審査を通ったとか自慢していた奴。  結局あの賞は一次審査止まりだったようだ。それを思いだして、鼻で笑った。  そいつの今回の受賞報告は、僕が見送ったコンテストだった。  いったいどんな話を書いたのだろうか。  少し気になり受賞作品のリンクから、そいつの作品を読んだ。 「……は?」  僕は絶句した。  そこに載っていた作品は、僕が書いたものだったからだ。  正確には、僕が虫に食わせて3万円を得た、あの作品だ。 「……どうなっているんだ」  パソコンに残っているデータを確認する。一言一句間違うことなく、僕が書いた作品だった。  僕の作品で大賞を取ったそいつのアカウントは、審査員から絶賛の評価を貰い、フォロワーからの祝いのコメントで溢れていた。  本来それは、全部僕のものになるはずだったのに!  しかし僕はこれをどこにも発表していない。  僕の作品だと主張したとして、誰がそれを信じるだろう。  あの作品は、もう僕の作品ではなくなってしまった。  僕は無意識に、あの文房具屋と向かった。
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