本の虫のための

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 店主の爺さんは、あの時と同じように新聞を広げてレジに座っていた。   「あの……『本の虫のための原稿用紙』について、聞きたいことがあるんですが」  店主は新聞を置き、僕の顔をじっと見た。 「お前が虫に食わせた話を、誰かが自分の話として世に出した」  僕が説明する前に、爺さんはそう言って笑った。 「な、なんでそれを……」 「あの原稿用紙を買った者は皆同じようなことを言ってくる」 「そうです。あれは僕が書いたものだ」 「……お前はきちんと報酬を得ただろう」 「え?」 「つまり、お前は自分の作品を『売った』んだ。売った奴がいれば、もちろん『買う』奴もいる。つまり、そういうことだ」  作品を売った。  そして買われた。  あいつは──どういう方法かは知らないが──僕の作品を『買った』んだ。
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