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いつまでこんなことを続けるのかなと、時々は真面目に考える。この状況を作り出し、維持させているのは自分のせいだという自覚はもちろんあるし、褒められたもんじゃないとは思っている。
僕の休みは、休館日である毎週月曜日と、固定休の水曜日。水曜日は女性客が多いらしい。僕が休むことで、必然的に外部インストラクタのクラスを開催するからだ。僕にできることは僕がやったほうが経費の節約になる。従って水曜日は、大人のためのバレエだとか、ポリネシアンダンスだとか、ハタヨガだとか、そういう女性客が集まりそうなプログラムが多い。決して、僕目当ての男性客の足が遠のくからではない。会員のほとんどは、僕に興味なんかないんだから。それでもたまに、妙に僕に興味を持つ会員さんが現れるけれど。
バイト時代を含めて、この仕事はもう十五年以上になる。若かった頃は、本当に色々あった。職場の同僚、会員、外部インストラクタにアルバイトに……。
「こんばんはー」
「……こんばんは。お世話になります」
スポーツクラブに併設して、ウェアやサプリメントの販売店もあるので、商品の補充が必要だ。自動販売機に入れるドリンクは、本部が一括手配したものを各店舗に送ってもらって、バックヤードに在庫してスタッフが補充する。そのほかの商品に関しては、店舗ごとの判断で、直接卸業者へ注文することができる。もちろん、その業者は決まっていて、担当営業者は固定だ。その担当者とも関係がある。
新しいウェアの発表時期になれば、ウェアメーカーの人間を連れて来て棚配列のやり取りをしたり、試飲キャンペーンをさせて欲しいと飲料メーカーの人間を連れて来て、一緒に受付横にちょっとしたブースを展開したりする。
うちの会社は、商品購入窓口をその業者一箇所にしているので、あらゆる商品の売り上げがその業者の、ひいては担当者の成績につながる。だから、僕以外のスタッフは、その担当者が非常に仕事熱心で、よくできる営業マンなのだと疑っていない。
彼は、川本という名前の僕と同年代の男だ。営業職にありがちな、人当たりのいい笑顔と軽妙な切り返しのできる話術を持つ、根っからのゲイだ。前任者に連れられてこの店舗の担当者になったのは半年ほど前。挨拶をしたその翌日から、彼はニコニコと頻繁に顔を出すようになり、僕の出勤状況を瞬く間に把握し、ピンポイントで納品や売込に訪れるようになった。
今日も、もう一人の社員は休みで、僕はこの時間に担当クラスがなく、他のスタッフと同じように制服のポロシャツを着て、細々とした業務をこなしていた。僕がカウンタに出ていなければ、別のスタッフが呼びに来る。商品の検品くらい、誰でもできるのに、川本は必ず僕を呼ぶ。
「メーカーさんから、期限まで半年のサプリの現品を、無償で提供していただきましたので、一緒にお持ちしました。買うと結構高いんで、スタッフの皆さんで飲んでいただいてもいいですし、会員の方に配っていただいて、販促活動に使っていただければ」
「ありがとうございます。有効に使わせていただきます」
「本部さんとか、近隣店舗さんには内緒でお願いしますね。小阪さんにだけ、渡してますから」
「ありがとう、ございます」
「これ、伝票です。チェックをお願いします」
いつも通りの愛想のよさで、川本は僕に伝票を差し出す。僕は真面目に、自分が発注した商品が入荷しているかどうかを、現物と伝票をつき合わせながら確認する。ああ、会員さんに取り寄せて欲しいといわれていたサポーターも届いてるな。
少量をしょっちゅう運んでもらうのも気が引けるので、大体週に一度くらいの納品になるように調整している。それでも段ボール箱で二個口程度の量だ。僕は検品を終えて、受領書にサインをしてから川本に返す。
「小阪さん、もうすぐ上がりですよね?」
「……」
「俺もここ、最後の納品で、直帰なんです」
「……そう」
「じゃ、待ってるんで」
川本は僕のサインの入った受領書をさっさと自分のバインダーに仕舞って、じっと僕の目を見つめながら笑う。先週は、月末だから仕事があると言って断った。先々週は、いいタイミングでバイトの子に呼ばれて、うやむやなまま彼は帰っていった。なんと言おうかと僕が考えている間に、川本は近所にあるファミリーレストランの名前を挙げて、最後もきっちり愛想よく、受付カウンタにいるスタッフにも頭を下げてから店を出て行った。僕はため息をつき、ノロノロと二つの段ボール箱の中身を陳列し始める。
「手伝います」
「え?ああ……ありがと」
「全部、並べますか?」
「いや、……ああ、そっちの箱の中身は全部並べていい」
「了解でーす」
できることなら一人でやって、だらだらやって、川本と合う時間を先延ばしにしたかったのだけれど、爽やかなバイト君、風間は快活に笑って、ひょいひょいと新しく入荷した商品を箱から出しては、棚の空いた隙間を埋めていく。背が高くて腕も長いので、届かないということはないらしい。僕はまたため息をついて、自分の目の前にある箱の中身を片付けた。
嫌なら行かなきゃいい。そんなことはわかっている。僕がもし今夜、彼のいるファミレスに行かなくても、うちの店の棚が空になるわけではない。彼には連絡先も教えてないし、当然だけど僕の家だって知らない。逃げ道はいくらでもあるんだ。
それなのに僕は、結局その陳列を終え、今日の数字を本部に送信した後、ちゃんとそのファミレスへ向かい、彼と会ってしまった。
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