僕の王子様

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 風間の言葉が頭から離れない。肉体仕事でよかったと思うほど、考えるのは風間の事だ。今まで誰かに優しくされたいなんて考えたことはなかった。ただ、こんな僕の目を覚まさせて欲しい、そんな誰かを求めていた。  それがあんな子供みたいな男だというのか?白い肌の、伸びやかな肢体に、小さな整った顔が乗った今時の大学生。爽やかな笑顔と軽い口調にごまかされがちだけれど、仕事も良くやるしお客さんに対しても誠実だ。  期待してしまう自分を否定できない。優しくだって?優しくされるって、どういう感じなんだろう?  僕は迷った挙句、藤田さんに、「もう桂店には行きません」とメールした。風間の言葉はきっかけだ。いずれやめるべきことだった。藤田さんは妻子持ちで、僕は彼と就業時間中に逢っていた。ただでさえ肩身の狭いゲイなのに、後ろ指を指されるようなことはもうやめたい。  藤田さんに電話やメールで怒られるかと思ったけれど、「わかった」という短い返信があっただけだ。そして僕はそれを皮切りに、出入り業者の営業にも、外部インストラクタにも、会員たちにも、まるで操られているかのように次々と淡々と、関係を断つ旨を伝えていった。  彼らは一様に理由を聞きたがった。僕がただ終わりにしたいだけだと話せば、次には薄ら笑いを浮かべる。「欲しくなるでしょ?」と、下劣なことを匂わせる。それでも僕の意思が固いと知ると、脅迫めいたことを口にし、最終的には罵られた。  あまりにも似通った反応に、僕の周りは同じような男ばっかりだったんだと改めて思い知る。風間は、違うんだろうか? 「そうじゃない。別に、風間は関係ない」  身辺を綺麗にしたのは、今までの怠惰で流されやすい自分が嫌になったからだ。それなのに風間に縋ったら、人数が変わっただけで何も変わらないじゃないか。……彼らと風間は、違うかもしれないけれど。  そうやって僕が独りで足掻いて四苦八苦している間も、風間はクローズシフトに意図的に入り続け、僕はラストシフトのメンバーが帰ったあとの二人きりの時間を、気まずい思いでやり過ごしていた。風間はあの日以来、僕に必要以上に近づいたりはしない。僕を名前で呼んだり、魅惑的な誘いも口にしたりもない。  彼が何を考えているのか、あれは何だったのか、僕は混乱していた。  今日もようやく仕事が片付き、何もない風を装う風間を無視するわけにもいかず、僕はボソボソとお疲れ様と口にした。風間はいつものように明るく爽やかにお疲れ様でーすと笑って返してくる。僕はそんな風間の顔をまともに見ることもできないのに。 「あー……僕、シャワー浴びてから、帰るから。先に帰ってていいし」  今日もそんなことを小声で言いながら、僕は自分のロッカーからタオルを掴み出す。背後で風間がユニフォームを脱いでいる気配がして落ち着かない。早く、シャワールームに行こう。 「藤田マネージャー、お元気ですか?」  予想外の言葉に、僕はロッカーの扉を乱暴に閉めてしまった。とっさに返事ができなくて震える手でタオルを握り、ロッカーに向かったまま俯いていると、風間が近づいてきて、肩を引かれて向かい合ってしまう。なんでこんな時にそんな楽しそうな笑顔なんだ。 「冗談でーす。最近、桂店、行ってませんよね」 「そう、だよっ」 「別れました?」 「……別れた」 「よく来てた、お金持ちの会員さんとも?」 「会ってない」 「ウェアの営業さんとか、この間ロッカーで口説かれてた会員さんとか、あとはぁ」 「全部だよ!全部切った!!」 「ですか~」  顔が熱い。風間はいつかと同じようにロッカーに腕を突いて僕を閉じ込め、変わらない高さから見つめてくる。どうしよう。どうしたらいいんだ。 「なんで?」 「なんで、って……」 「だって、ずっと前から色んな人と遊んでたんでしょ?」 「……それは」 「やだって言えるのに言わなかったのは、マゾネコなのかな、克彦さんは」 「ちが……」 「俺、優しいから。マゾネコちゃん満足させられないかも。経験少ないし」 「や……」 「なんですか?」  僕は思わず目を逸らす。違うだろう、何を言うつもりだ。別に風間の言葉で切ったわけじゃない。優しくされたいなんて、そんなの、違うんだ。だけど身体は正直で、股間に熱が集まってしまう。最近誰ともしてなくて、溜まってるから。風間だからじゃない。  僕が黙ったまま固まっていると、風間の長い指が、服越しに僕の乳首を刺激する。突然のことで、どうしていいかわからず混乱して、必死に唇を噛んで耐える。  だけど、口が勝手に動いてしまう。 「……優しく、されたい」 「そうなんですか?」 「だから、全部やめたんだっ。優しくしてくれるって」 「言いましたね、俺」 「だから……!」 「本当に優しくされたいですか?」  彼の手が、するりと僕の股間を撫でる。思わず身体が動いてしまって、金属製のロッカーに背中をぶつけて大きな音がする。風間の優しい愛撫で、僕の股間はどんどん大きくなってしまう。  僕は恥ずかしさを堪えて、小さな声で、風間を求めてしまった。ギュッと目を閉じて、風間の愛撫の続きを思うだけで、我慢なんてできそうにない。 「優しく」 「意地悪もなしで?」 「……乱暴は、嫌だ。本当は嫌なんだ。痛いのも、嫌だ」 「意地悪は好きだよね?」 「……」 「恥ずかしいのも好きでしょ?」 「……好き」 「了解でーす」  風間は楽しそうに返事をして、あろうことか跪いた。そして僕のウェアと下着をずり降ろした。汗ばんだ肌に貼りつくそれが上手く脱げないと知ると、もどかしくて僕は自分で脱ぎ、態度と行動で続きを強請る。  風間は低い位置から僕を見上げてにっこり笑うと、躊躇うことなく僕のを咥えた。  あまりの気持ちよさに、声が、漏れてしまう。 「すごーい。大人のちんちんって感じ……いろんな人にこすられてこんな色になっちゃうんだ?」 「や……ちが……っ!」 「優しいの、物足りない?」 「後ろ、に、欲しい……!」 「ダメでしょ、痛いのやなんでしょ?」 「優しく、してくれ」 「今日は無理~だってゴムもジェルもないからね」  自分でもわかるほど、後孔がヒクついている。そこに刺激が欲しいのに、今日はだめだと言われて、僕は思わず絶望的な声を出した。風間は口淫を再開し、その巧みさに僕はあっという間に彼の口の中で達してしまった。 「あ……あぁ……はん……」 「気持ちよかった?」 「よ、かった……」 「じゃあ、俺のもしてね」  もう誤魔化しようがない。僕は風間に抱かれたくて、優しくされたくて、ただそれだけを望んでほかの男との関係を解消し、ずっとこうされるのを待っていた。  上半身裸の風間は、近くにあったパイプ椅子に座って笑いながら僕に手招きをした。僕は床に手をついて彼に近づき、ウェアの上からでもわかるほど膨らんでいる股間に手をやる。  ああ、大きい。こんな大きいの、初めてだ。僕は彼のペニスを取り出して、無我夢中でしゃぶった。 「克彦さん……すごく気持ちいい」 「ん……んぅ……」 「今度ホテル行こうね。エッチしたいな」  コクコクと小さく頷きながら、僕は風間を見上げる。これを、入れて欲しい。すごく大きいから苦しそうだけど、きっと風間は優しいから大丈夫だ。彼はにっこり笑って僕の喉の奥まで自分のを押し込むと、腰を揺すり始める。 「あーいい……出る……出すよ」 「んっんんっ!んぐ……!」  喉の奥に熱い粘液が流し込まれる。苦しさと満足感で、僕は涙が出た。口の中が、すごく敏感になっていて、風間のペニスが出ていくだけで気持ちよくて、僕の股間はまた少し硬くなる。 「苦しかったですか?」 「ん……ちょっと……」 「ごめんなさい。俺、嬉しくて」 「……気持ちよかった?」 「すごーく。またしてね」  よかった。少なくとも、フェラは喜んでもらえた。僕は床に手膝をついたままで風間を見上げる。彼は小首を傾げて、シャワー浴びるんでしょ?と聞いてきた。 「あ、うん……」 「克彦さん、また明日ね」 「ああ」  僕は風間に、優しくされる資格を得たようだ。
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