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「うん。知ってた! そう! ブルーギルって淡水魚なんだよね。我もね、おかしいなぁ〜って思ったんだよ。首領がね、あ、首領って我のボスのことね。そいつが言ったんだよ。ブルーギルギルよ。日本で一番広い水溜まりにブルーギルの稚魚大量にを放ち、さらなる外来魚天国を作るのじゃ〜!って」
ブルーギルギルは海に目を向けると更に言葉を続けた。
「ほら、日本で一番広い水溜まりっていったら海でしょ。海しかないじゃん。でもね、海にブルーギルって、ないわぁ〜。海水に淡水魚ってないわ〜。って我も思ったの。だけどほら、我の組織ってさ結構ブラックだからさ〜、我みたいな下っ端怪人が意見なんて言える雰囲気じゃないんだよねぇ。パワハラとか日常だしさ。それでしかたなく、この町に来たってわけ! ね。しかたなくだよ?」
ウチは項垂れるブルーギルギルを哀れに思った。
喉まで出かかっている言葉がを投げつけることが、傷ついているブルーギルギルに更なる追い討ちをかけることになることもわかっていた。
だけど、ウチは正直な女の子なのだ。だからその言葉を胸の内に秘めておくことは出来なかった。
「それ、琵琶湖」
「は?」
「首領が言ったの琵琶湖のことでしょう。日本一大きな水溜まり」
「な、なん……だと」
ブルーギルギルはガクリと地面に膝をついた。
「び、琵琶湖だと。そんなバカな……。我のアパートからチャリで五分じゃないか。我はなんのために半日もかけて鈴鹿山脈を越えて、三重の端っこまで来たのだ! 移動費だってだいぶかかったのに! 我の組織は交通費なんて出ないんだぞ!!」
悲しいけど、これ現実なのよね。
淡水魚のくせに海に稚魚を放流すると勘違いしたボンクラ怪人の哀れな末路だ。
ウチは嘆くブルーギルギルにかける言葉が見つからなかった。
そうだ。悪いのはブルーギルギルじゃない。ハッキリと、「琵琶湖に稚魚を放流せよ!」と言わなかった首領が全て悪い。下手にカッコつけた言い方をするから部下が間違いを起こすのだ。ちゃんとした指示を出せない上司なんて最低だよね。人の上に立つ資格なんてない。
ウチは悲観にくれるブルーギルギルをそっとしておくことにした。いまウチにできるのはそれだけだ。
好きなだけ嘆くといい。好きなだけ泣くといい。でも夜が明ける前に帰らないと通報されるよ。キミは変態たんだからね。
ウチは蹲るブルーギルギルの横を通り抜けて、その場を立ち去ろうとした。
「おい小娘。どこへ行く」
「いやぁ、お家に帰ってお風呂に入ろうかなぁ〜って。今日はいっぱい走ったし、汗もかいたし?」
「そんな事が許されると思ってかーっ!!」
「きゃぁぁぁ!」
いまのいままで落ち込んでいたブルーギルギルがドーンッと立ち上がり荒い鼻息を吐きながら、サイドチェストをする。怒りからか大胸筋がピクピクと痙攣していた。
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