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ブルーギル
信じられない信じられない信じられない!
これは夢これは夢これは夢! そう、これは悪い夢だ!!
全力で走りながら振り向くと、ソレはブリブリと尾を左右に振りながら、ウチを追いかけて来ていた。
「いぃぃぃやぁぁぁぁ!!」と悲鳴を上げたいのはやまやまだけど、全力疾走中のウチにそんな余裕はなかった。
なにアレなにアレなにアレ!
ソレは魚だった。魚? いやいや、アレを魚というなかれ。ウチは十六年の人生であんな魚は一度たりとも見たことはない。
仮にアレが魚だとしたら、世界の水性生物学会が大変なことになる。そんな学会があるか知らないけど。とにかく、オサカナくん大先生だって、ビックリ仰天、失神する存在なのは間違いない。
ギョギョギョ!ってなもんだわ!
でも、ソレはやっぱり魚だった。顔だけは。
モヒカンヘア。というか、背ビレが魚面の上に生えていて、モヒカンみたいに見える。それでもってテカテカのヌルネルのマッチョボディ。オシリに大きな魚の尾を生やした赤いブーメランパンツ。
どう見ても変態としか言いようのない大男が街灯の疎な薄暗い道でウチを追いかけてくる。
大きな尾を左右にブリブリと振りながらウサイン・ボルトばりのフォームでウチめがけて走ってくる。
なんでウチがこんな目に遭わなきゃいけないのっ!追いかけられるなら、イケメン男子に……って思ったけど、ウチは男子は好かんから可愛い妹キャラに追いかけられたいぃっ!できればゴスロリ!!
と、心内で悪態と愚かな願望を独白している間にウチはあれよあれよと海の方へと追い込まれてしまった。
「あれ? あれっ! 道間違えた!?」
できればゴスロリ。のくだりたありでウチは右に曲がらないといけないところを左に曲がってしまったようだ。
この先には灯台とテトラポッドしかない。
「ギールギルギル。わざわざ袋小路に逃げ込むとはご苦労なことよ」
堤防の先にある小さな灯台までウチを追い込むと、変態。もとい魚マッチョはその体形に似合わない高い声で笑った。
「アンタ、いったいなんなのよっ!」
「ギールギルギル。いったいなんなのよっ!って聞かれたら答えてあげるが世の……」
「その先は言わんでいいっ!色々とややこしくなるっ!!」
ビシッと平手を前に突き出してウチは魚マッチョの言葉を制した。
「ええ〜。そこは言わせてよ〜。悪役ってそういうの必要でしょう。こう、なんか自己紹介的な? じゃないとさ。ホラ、我が何者かわからないじゃない?」
不服そうに腕を組んで魚マッチョは口をパクパクとさせた。
「それならオリジナルのを考えてください。そのセリフはR団のものですから。ほら、パクリは組織の質を落としますよ」
「質か、質ね。たしかに魚は鮮度が命だしね。たしかに使い古されたセリフは良くないよね。うん。良くない」
方々から怒られそうなことを言って、魚マッチョはブツブツと言いながらウチに背を向けた。
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