オレハン 第14話

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同日、ホークギャザードの面々は研究所から届いた対ドラゴン用のヴァルフェを持って外に出ていた。 「これはなんだ」  敏久はヴァルフェの1つ、太い筒を見ていった。 「それは、バズーカのヴァルフェ「ホープレイ」。バズーカというのは今から600年前の第二次世界大戦ころから使われた対走行戦闘車両の武器だそうです。その頃から改良されていますが、これを肩に担いでこのボタンを押すとマナで出来た弾丸が飛びます。その弾丸は銃の何倍も威力があります」  敏久の問に、空護が答える。空護はテストでここにある一通りのヴァルフェを使ったため、使い方を覚えている。 「なら、これは僕向きかもね」  昌義はバズーカを肩に担いだ。そして、ホークギャザードの裏にあるアーティレストに向かってバズーカのヴァルフェ、ホープレイを放つ。  まぶしい弾丸がスギの木にぶつかると、当たったスギは粉々に砕け、周りの木もその衝撃でばきばきと音を立てて折れてしまう。その威力に皆は背筋が凍った。 「…これでもドラゴンは倒せないの?」 「飯田さん曰く、ダメージは与えても致命傷に至らない、だそうです。たとえるなら、青あざが出来るくらい」  これから自分達が戦う相手の巨大さを感じて、敏久たちは言葉を失う。しかし、敏久は急に笑い出した。 「ははは、楽しくなってきたじゃねえか。きっと、ここまでの強敵、人生で2度と戦うことはあるめぇよ。なあ大神、オレ向きのヴァルフェあるか」  楽しそうに問いかける敏久に、空護は迷わず答えた。 「班長にはこれを。これはヴァルタング、研究所が初めて作った防具、最硬の盾です」  それはA4の紙くらいの大きさの板に、指が4本入りそうな取手がついたものだった。敏久は取手に自分の右手を入れて握りこむ。ヴァルタングにマナを込めれば、敏久ほどの面積のあるアイロン型の盾が展開された。 「おお!」  白銀に輝くヴァルタングに、敏久は感嘆の声をあげる。 「そのまま、構えてください」  ヴァルタングの性能を知ってもらうために、空護は自分のヴァルフェ、「竜巻」にマナを込める。  敏久は空護の攻撃に耐えるために、腰を低く構える。 「いつでもいいぞ」  その声を皮切りに、空護は助走をつけヴァルタングに切りかかる。しかし、空護の竜巻はヴァルタングに遮られ、敏久には届かない。それどころか、ヴァルタングは竜巻を跳ね返した。  空護はその反動を、体を回転させていなす。 「ヴァルタングの特徴は、その強固さと、使い手への衝撃を和らげるために、衝撃を跳ね返す、の2つです。そうでないと、ドラゴンの攻撃に耐えられないので」  敏久は白く輝くヴァルタングをまじまじと見つめる。 「いい盾だな」 「ヴァルタングは最近できたばかりなので、まだ名前がついてないんです。班長、名前を付けてくれませんか?」 「いいのか?いつもは研究所でつけてるだろ?」  大抵のヴァルフェは、発明したものが名前を付けている。 「いいんです。発明した本人はもうつける名前がなくて、オレにつけていいって言ったんですけど、全然思いつかなくて。どうせなら、使う人につけてもらおうと思いまして」  初めてだった。空護が自分を頼るのが。名づけという、些細なことだったが、確かに初めて空護は自分を頼っている。 「そうだな…。鷲巣の護り。鷲護(しゅうご)なんてのはどうだ?ちょうど、護の字がお前とおそろいだ」  顔の向きから、こちらを見ているのは分かるが、フードのせいで空護がそんな表情をしているのか分からない。  空護の背にゆっくりと近づいてきた影が、空護のフードを取る。 「じゃーん」  忍び寄ってきた影の正体は清美だった。清美にフードを取られた空護は顔を赤らめている。 「せ、先輩!」 「いいじゃない。あたし、あんたのフード大嫌いだったのよね。あたしたちしかいないんだから、そのうっとうしいの取りなさいよ。せっかく綺麗な顔してるんだから」  清美の言葉に、空護は更に顔を赤くした。 「で、班長がせっかくヴァルタング?だかに名前つけてくれたけど、なんか感想ないの?」  清美の問いに、空護はむずむずと口を動かす。 「…嬉しいです、よ。良い名前つけて貰えて。きっとオレじゃ考えつかなかった」  空護の答えに、敏久はにんまりと笑う。 「じゃ、こいつの名前は鷲護で決まりだな」 「ねえ、あたし向きのはないの?」  他2人のヴァルフェ、ヴァルタングが決定してじれたのか、清美が空護の服の裾を掴みねだる。空護は特に動揺することなく、リュックサックのようなものを持ち上げた。 「先輩にはこれを。この中では1番扱いが難しいのですが、気に入ってもらえるかと」  空護が差し出したものを清美は迷わず受け取る。 「これは何?」 「これはヴァルフェールの「ジェット」です。これを背負ってマナを込めれば空をとべます。ただ、勢いをつけすぎると思わぬ方向に行くことが、って先輩!」  清美は空護の説明も終わらぬうちにジェットを背負い、マナを込める。するとゆっくりと清美の体が浮き始める。 「へぇ。こんな感じなのね。これ、曲がるときはどうすればいいの?」 「ジェットの噴射口は二つあります。ので、曲がる方と反対側の方にマナを込めれば曲がれますよ」  空護の話をきいたあと、右へ左へ曲がり始める。清美はマナのコントロールが上手いせいか、ジェットの操縦も上手い。 「それも面白そうだな」  清美をうらやましく思ったのか、敏久はきらきらとした目で空護を見つめている。空護はゆっくりとした動作でジェットを取り出した。 「マナを込めすぎないように気を付けてください」 「おう!」  敏久は素早くジェットを背負い、マナを込め始める。最初はゆっくりと込めていたようだが、全く体が浮かないため少し強めにマナを込める。すると敏久の体は急に空を飛んだ。 「うわああああ!」  驚いた敏久は、マナを込めるのを止めてしまう。敏久の体は重力に逆らうことなく急降下した。敏久は自分に襲い掛かる衝撃に備えて目を閉じる。しかし、訪れたのは少しの衝撃と、空護の唸り声だった。 「ぐっ」  どうやら、落ちてきた敏久を空護がお姫様抱っこで受けとめたようだ。人さえ違えばロマンチックな光景だが、残念ながらそうはならなかった。 「悪かった…」 「いえ、問題ありません。ただ、ジェットの操作は凄く難しいんです」  空護はゆっくりと敏久を地面に降ろす。そして2人並んで空を飛び回る清美を見ていた。 「誰もがすぐ、あんな風に飛べるわけではないんです…」  敏久は清美を見上げる空護の顔を盗み見る。その琥珀色の目は少しうるみ、耳は力なく垂れていた。小さく傷ついている空護の肩を、敏久はぽんと叩いた。
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