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久志が朝から来てもかまわないと言ったのは、自分に夕方から出かける用事があるからだった。仕事なんだから仕方がない。僕はやせ我慢でそれを聞き分ける代わりに、彼の部屋についた途端に襲い掛かった。
たっぷりと唾液を絡ませあうキスをして、久志のTシャツの裾から手を入れて、彼の薄い腹を撫でる。ダメだよ、待って、と久志が囁くけれど、早くしてって言われているような気がして、僕はその場で、つまり玄関先で彼を押し倒した。
「こら!悟!こんなとこじゃやだ」
「興奮しない?部屋の外、歩く誰かに聞こえるかも」
「馬鹿……聞かせたいの?俺の声、悟以外に?」
「ダメ。我慢して」
「できないよ……ベッド行こう?これ、欲しい」
久志は甘く誘うように笑い、僕の首に腕を絡ませる。そして立てた膝で、僕の股間を擦ってくる。もう下着にシミができているかもしれない。夕べ何度も抜いたのに。
僕は立ち上がって久志を引っ張り起こし、ベッドルームへ飛び込んだ。久志は相変わらず生でするのを嫌がるから、僕も最初はゴムを着けるけれど、最後の一発は絶対に中出ししたいから、最終的にはいつも生で突っ込む。久志も本当はそっちの方が感じるのに、高校生に種づけされるなんて恥ずかしいとか、おなか痛くなっちゃうから嫌だとか言うんだ。だけど、感じるでしょう?俺のちんぽ、放さないじゃん。
「あ!あ!だめ、悟、深い……!やだ、痛いってば……!」
「痛いの?本当に?」
「いつも言ってるだろ?悟のは大きいから、目いっぱい突っ込まれると痛いんだ」
「でも、奥、突かれたくない?」
「悟、俺は女じゃない。もっと、俺が感じるところを攻めて?知ってるだろ?」
「うん……ここ、だろ?」
僕は少しの物足りなさを感じながらも、素直に腰を引き、手前のあたりを探るようにペニスを出し入れする。僕のは上反りが大きくて、正常位だとカリが前立腺にゴリゴリしてたまらないらしい。案の定、久志はすぐに、髪を振り乱してシーツを握りしめ、すごいすごいと嬌声を上げ始める。久志は僕とのセックスにどっぷりはまっているようだ。
「い、く……!あ、いく!いく!もっとして、そこ!んあぁ……!」
「久志、久志……!愛してる。僕も、出る、中に、出すよ……!」
僕へ結局乱暴に腰を振り、彼は自分のペニスを必死に擦って、僕と一緒に達した。何度か外に出してと言われたけれど、やっぱり奥の方に注いでしまう。きゅんきゅんと締め付けられて、一滴残らず出してから、久志に軽いキスをして、ゆっくりとペニスを引き抜く。
ヒクつく孔から、とろりと白いものがこぼれるのを見て、僕は漸く満足できた。久志も満足そうに目を閉じている。
「駅まで送るよ」
「そう。ありがとう」
シャワーを浴びて、いつもよりきちんとした格好に着替えた久志はかっこいい。そんな久志に愛されているのが僕なのだと思うと誇らしい。誰か他のやつに目をつけられたら困るので、僕は久志を駅まで送っていくことにした。あいにく自転車だから、押して歩くしかないけどね。
「暑いなぁ……」
「まだしばらく暑いよね」
「あと二ヶ月くらい?干上がりそう……」
「僕はアイスとか食べたら結構大丈夫」
「俺も昔はそうだったかなぁ……」
そんな風に会話しながら、久志のマンションから駅までの道を一緒に歩く。夕飯にはまだ早く、気温が下がる気配はない。昼間と変わらないくらいの日差しの中、駅に近づくに連れて人通りは増えていく。わずか十分ほどのデートの終わりは早い。
「悟?」
少し離れたところから名前を呼ばれた。僕は首を巡らせて、横断歩道の向こう側に立つ叔父さんを発見した。軽く手を振ると、叔父さんも手を挙げて応えてくれる。
「久志、あれ、僕の叔父さん」
「……ああ、いつも話してる」
「そう」
久志は暑そうに目を眇めたまま、信号が変わってこちらへやってくる僕の叔父を見た。叔父さんは僕たちの傍まで来て、よう、と声を出した。僕は大好きな叔父さんに、久志と一緒のところを見られて、恥ずかしいような嬉しいような気分だった。
「お帰り」
「ああ」
「早かったね」
「上手く話が進んでな。……そちらは?」
「前に話したでしょ。太一の勉強の先生。久志さん」
叔父さんには何度となく話していた。太一の勉強を見ている人に、たまに自分も教えてもらっていると。叔父さんは少し困った顔で、向こうは商売でやっているのだから、月謝を払っていないお前が余り厄介になるんじゃないと窘められた。でもその後、うちに遊びに来た太一に「俺が呼んでるんで、気にしないでよ、叔父さん!」と言われて、この件は了解のような形になっていた。
僕のこころの中では、恋人を紹介しているような気になっていて、あえて彼を久志さんと名前で呼んでみせた。叔父さんは外国暮らしが長い人の癖で、とってもスマートに久志に手を差し出す。久志も臆せずその手を握り返して微笑んだ。
「日下です」
「はじめまして。うちの子がお世話になっているようで申し訳ない」
「いえ……太一君と仲良く、真面目に勉強しているだけですから邪魔になんてなりませんよ」
「でも、あなたは太一君のほうから雇われている人でしょう」
「そうですね。たいしたことはしてませんから、お気になさらず」
「ありがとうございます」
「いいえ」
久志は僕に、ここでいいよと微笑んで、叔父さんに丁寧に頭を下げて駅へ向かって歩いていった。僕はその背中を見送って、叔父さんと一緒に今歩いてきた道を引き返す。
「暑いなぁ」
「うん。叔父さん、僕アイス食べたい」
「俺も食べたい。今の流行は何だ?」
「流行って何?」
「俺らの子供の頃は、ゴム風船に入ったアイスが流行ってた」
「なんでゴム風船にアイス入れるの?」
「なんでだろうなぁ」
「見たことないよ、そんなの。今はやっぱさぁ」
くだらない話をしながら、家から近いスーパーに二人で立ち寄って、夜ご飯の買い物と一緒にアイスを買ってもらった。行儀悪くも、二人でそれを舐めながら家路を辿る。
「悟」
「んー?」
「あの日下先生、何してる人だ?」
「ああ、叔父さんみたいな感じ?家でデザイナーっぽいことしてるって。だから、太一とか僕が家にお邪魔して、わかんないトコだけ教えてもらうの」
「ふーん。あんまり入り浸るなよ。太一君のお父さんがお金を出して、自分の息子のために雇ってるんだから」
「はぁい」
「お前は自分で勉強できるだろう」
「俺はね。でも、俺にいて欲しいってさ」
「太一君が?仲いいよなぁ」
「……うん」
珍しく僕は叔父さんに嘘をついた。正確には、嘘ではない。太一は僕がいるほうがいいと言ってくれている。だけど、久志も僕にいて欲しいみたいだし。口に出さなくても伝わるのは、恋人同士だからだろうか。
叔父さんはそれ以上久志のことに関しては何も言わず、今日はそうめんだと宣言している。買い物の段階でそれを知っていた僕は、だと思ったよと返す。
叔父さんは大きな手で僕の頭を撫でて、お前、俺の髪の毛とそっくりだなと笑った。僕は、叔父さんと似ているのが嬉しくて笑った。
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