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「あ……」
「君は、本当に懲りないんだな」
叔父さんの静かな声は、久志に恐怖を与えているらしい。カタカタと震え、とてもじゃないけれど、長年慕っている人に会ったとは思えない態度だ。僕はのんきにも、久しぶりだね、叔父さん、などと挨拶をした。叔父さんは小さなボストンバッグを床に置き、呆れたような苦々しい顔で僕を見る。
「悟。お前が家に上げたのか」
「うん、だって、こんなに暑いのに、外で話し込んだら倒れちゃうよ」
「話し込まなければいい。話はもうないんだ。そうだろう?」
叔父さんは、俯く久志のうなじ辺りにそう言って、僕のペットボトルを手に取り、半分ほどを一気に飲み干す。久々に会う叔父さんは、相変わらずかっこよかった。
「帰りなさい、久志。何をどうやっても、もう俺は君と一緒に過ごすことはない。過去のことも、償ったと思ってる。これ以上は、何もしてやれない」
久志はパッと顔を上げて、叔父さんを睨みつけ、次の瞬間には眉根を寄せて、涙をこぼした。それはもう、本当に綺麗な泣き顔で、僕は思わず見惚れてしまったほどだ。
「……何もかも全部、そういう、罪の意識からくることだったんだ。俺のことなんか、一度も愛してくれなかったんだ?」
「…………」
「こうなったのは、尊さんのせいじゃないか!あんたが俺を、何も知らない俺を抱いて、優しくして、だから俺はあんたを好きになったのに……!」
「だからって、その復讐に悟を使った君を、愛せると思うか」
今度は僕が久志に睨まれる番だ。別に僕が久志から叔父さんを奪ったわけではないはずなのだけれど、久志には、正常な判断が難しくなっているらしい。叔父さんは深い溜息を洩らした。そして、もう一度久志に帰れと言った。久志はもう、叔父さんの方を見なかった。
「この家は手放す。君が俺の周辺を嗅ぎまわっているのにはうんざりだ。付きまとわないでくれ。迷惑だ」
「愛してるんだ!俺には、尊さんしかいないんだよ!」
「やめなよ、久志」
「ほっといてくれよ!」
「ほっとけないよ」
僕は久志を抱き寄せて、逃れようと身を捩る彼の顔を自分の胸に押し付ける。そして、驚いたような顔をして立ち尽くしている叔父さんを見上げた。
「叔父さんはもう、久志は要らないんだね」
「…………そうだな」
「じゃあ、僕が貰うよ。いいでしょ?」
「やめとけ、悟。もうその男に関わるな。そもそも、お前だって久志に」
「いいの。僕が貰う」
久志は身体を固くして、僕の腕の中でおとなしくなった。そして、力が抜けていく。かわいそうな久志。叔父さんのことはもう忘れて、僕のところにおいで。
「行こう」
「……」
「叔父さんといるより、きっと楽しいよ」
僕の言葉に納得したわけではないだろう。だけど久志は、僕の手を取った。もしかしたら、叔父さんへの最後の当てつけだったのかもしれない。叔父さんはそれ以上何も言わなかった。僕はにこりと叔父さんに笑いかける。
「今日は、久志の家に泊まるね」
「勝手にしろ」
叔父さんはすっかり呆れていて、ボストンバッグを手に応接間を出て行った。僕は叔父さんの背中を見送る久志を促し、今はどこへ住んでるの?と聞きながら外へ出る。
「……本気なのか」
「何が?」
「俺の家に泊まるって」
「うん。だめ?」
「……」
「ねぇ、久志。確かめたくない?自分がゲイの世界に引っ張り込んだガキが、今どんなセックスするのか」
「……今でもガキだろ」
「どうかな?」
剣呑だった久志の目が、陽炎のようにゆらりと情欲に揺らぐ。僕はそれを見てすごく満足した。そうこなくっちゃね。強い日差しが照り付ける、スニーカーの底が融けてしまいそうな道路で、僕は久志にどっち?と聞いた。
「前と同じマンション?」
「……違う。こっち」
Tシャツから覗く二の腕は白い。日焼けをする暇はなかったようだ。その肌を、たっぷり可愛がってあげるね。
久志の住処は、前のマンションよりもずっと叔父さんの家に近かった。立地を重視したのか経済的な事情か、前よりも手狭なワンルームだったけれど、相変わらずインテリアの趣味はよく、仕事用の大きなディスプレイを備えたパソコンがある。
「お邪魔します」
「……」
「じゃ、さっそく」
「! おい……っ!」
僕は後ろから彼を抱きしめて、遠慮なく股間を掴んだ。ここをこうされて、本気で抵抗できる男はいないと思う。僕は久志の耳に唇を寄せて、叔父さんは優しくしてくれた?と囁く。
「……関係、ないだろっ」
「そうだね。正直僕も、聞きたくないし」
さらに僕に文句を言おうとした久志の両肩を掴み、ぐるりと身体ごとこちらを向かせると、僕は久志の唇を塞いだ。僕のファーストキスの相手、初めて重ねた唇。相変わらず柔らかい。はむはむと下唇を噛み、ちゅうっと吸い付いたら、センサが反応したみたいに久志の口が開く。僕は股間を優しく撫でながら彼の腰を抱き寄せ、舌を絡めて思う存分貪った。久志が時々、ぴくんと身体を震わせて、鼻から抜ける甘いうめき声を聞かせる。かわいいね。
「悟……」
「僕のオベンキョウの成果、センセに見せてあげるね?」
「…………うん」
頬を上気させて、とろりとした表情で、久志が僕を見上げる。赤くなった唇を舐めて、すぐそばにあるベッドに彼を座らせ、口でしてよと久志の前に立つ。嫌だと言われたらどうしようかなと思ったのは杞憂だったらしい。緩慢ながらも躊躇いなく、久志は僕のベルトに手をかけて、勃ち上がり始めている性器を取り出した。
「……前より、大きい」
「そりゃ、成長期だったし?」
「ぁん……ん……」
熱い息がかかって、僕のものは久志に咥えられる。柔らかい頬がへこむほど強く吸われ、よく動く舌が唾液を絡めるように舐めまわす。腰が溶けそうなほど、久志のフェラチオは巧みだ。僕はそんな彼を見おろしながら、自分の着ていたTシャツを脱いで放り投げた。
「一回出すよ?飲めるよね?」
返事は聞かずに、僕は久志の後頭部を掴んで腰を押し付け、彼の喉の奥を使って自分の性器の先端を刺激し、そのまま射精した。久志の閉じられた目からは涙がこぼれている。さっきの涙とは違って、ちっとも綺麗じゃないけれど、僕はこっちの方がずっと好みだ。だってそそられるでしょう?
僕の精液を飲み下した久志は、ペニスを抜こうとした僕の腰に縋るように手をかけ、最後の一滴まで吸い尽くしてくれた。解放してくれた口の中を覗けば、舌の上に僕の白濁がまだ残っている。僕は彼の顎を指で押し上げて口を閉じさせ、ごっくんは?と言うと、久志は素直にそれも飲み込んだ。
「すごく気持ちいい。やっぱり僕は、久志のフェラが好き」
「…………俺も、悟の、大きいのが好き、かも」
「かも?」
「…………かも。まだ、わからない」
潤んだ目で、久志は僕に続きを強請る。羞恥と期待に目じりを染めて、股間を熱く滾らせて。気持ちいいこと、好きだもんね?
「自分で全部脱いで、ベッドに寝転がって、僕によく見せて」
久志はまた、緩慢な動きで、汗で貼りつくシャツを脱ぎ、ズボンと下着を一緒に下ろした。勢いよく、彼の性器が飛び出してくる。久志が床に落とした下着を拾って広げてみれば、グレーの生地が大きな染みを作っていた。僕がそれをヒラヒラさせて久志を見たら、彼は早くしてくれと小さく言い捨てて目を逸らす。
尻をこちらに見せつけるような四つん這いでベッドに乗り上げ、サイドボードからコンドームとジェルのボトルを取り出した。
「悟」
「はぁい」
僕も素っ裸になって、彼に誘われて、そう、久志は今、完全に僕を自分で誘った、僕は久志を徹底的に快感で溺れさせてあげようと改めて思った。
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