音の形をした結晶

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 降り積もった雪がふと気になって、少し取ってよく目を凝らしてみた。すると、他の雪とは違う形の結晶が紛れ込んでいるのが見えた。音符の形をした結晶だ。  一つ指先に載せて、耳へ持っていってみる。何か聞こえるような、気のせいのような……。かすかに聞こえた、と思ったら指に載せた結晶は溶けてしまっていた。  まだあるかもしれない。音符の結晶を集めるために家に戻って小瓶を持ってきた。  結晶を選り分けているうちに雪が降ってきたので、慌てて小瓶に蓋をする。どれぐらいで止むだろうかと空を見上げていると、何かがかたまっているのが見えた。それは小さいが人の形をしていて、列をなして空中を移動していた。  雪の精だ、と思った。それぞれ楽器を持っている。演奏している。雪の精の楽団だ。楽団の奏でる音色が音符の結晶になっているのだ。  急いで家に戻り、マイクとスピーカーをとってきた。何故そんなものを持っているのかについては言いたくないので割愛させていただく。  楽団のほうへマイクを向けると、スピーカーからちらほらと音符の形をした雪がちらつき始めた。音を増幅させたことによって音符の結晶も大きくなったのだろう。音楽自体は聞こえない。音量を上げると音符の形の霰が飛び出してきた。  どうにか楽団の音楽が聴けないものか。霰を砕いてみると素敵な旋律が流れてきた。これを沢山集めれば素晴らしい音楽を聴くことができるだろう。しばらくマイクとスピーカーを抱えて楽団の元をついて歩いて行ったが、人通りのある所に出てしまって音楽を拾えなくなってしまった。  仕方ないので霰を拾いながら帰った。半分残して砕いてみる。それぞれは美しい旋律なのだが、どうも繋がりが上手くいかない。直接聴くことができたならば、どんなに素晴らしい演奏だったことだろう。  それから楽団の曲を想像しているうちに、音楽への未練がわいてきてしまった。もうすっかり諦めたつもりでいたのに。  それから雪の降る日には必ず空を見上げるようになった。残念ながら雪の精の楽団を見つけることはなかった。それでも自分なりに楽団の演奏していた音楽を再現しようとしている。これが完成したらまた音楽の道を志してみようか。
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