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七日目
—— 浅野海、これで初日から七連敗。角番脱出まで後がなくなりました
大相撲の結果を伝えるスポーツニュース。
弟弟子の一人が、気まずそうにテレビを消した。
俺は、医者の処置を済ませて、部屋に戻って椅子に腰かけた。
付き人のヨシがアイシングを当ててくれていた。一年前に痛めた右ひざ。溜まった水を抜いてもらっても、痛みが引かず眠れない。
ちゃんこの後、一日の終わりのルーティンだった。
「ヨシ、お前も疲れてるのに、いつも悪いな」
「ごっつぁんです」
反射的な返事としばしの沈黙。そして、再びヨシが口を開いた。
「関取の相撲、まだまだ見てたいんで」
生意気なこと言いやがる。やっと十六になったばかりのくせに。俺が弟子入りしたときとは大違いだな。
新入りが大関の付き人になるなんてありえなかった。だけど、俺が指名し、親方に断ってそうした。
いまどき中卒で相撲部屋の門をたたく奴なんて珍しい。それでいて、毎日、死に物狂いで稽古していて、その姿が、なんだか昔を思い出させた。
弟子入りして二十年。大関になって五年。
ここ一年は怪我に苦しみ、なんとか勝ち越しては休場の繰り返し。
二場所連続負け越しで陥落してしまう大関という地位をギリギリ守ってきた。
苦境を前に、消えてしまいそうな闘志が、ヨシの姿を見ていると蘇ってくるような気がした。
だけど、もう年貢の納め時か。明日負ければ大関陥落が決定する。そしたら引退。事前に親方と決めた約束だった。
「必死でやれよ。これからも」
俺は、ヨシの頭をガシガシ撫でながら、思い出していた。
中学を出たばかりのあの日を。
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