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夜の埠頭そばの倉庫には武装したヤクザたちで埋め尽くされていた。音は立てないものの確かに殺伐な雰囲気が漂っている。
アタッシュケースを持った男が1人マスクとサングラスを着けた姿で現れる。ヤクザの一人が近づく。
「いつものように金は持ってきたか?」
「そう慌てるな。契約通り、両替済みで2億」
「……いいだろう。ほら約束のもんだ」
「感謝する。日本の『粉』はよく売れるんだ」
男とヤクザは同時のタイミングで互いの荷物を交換する。ヤクザは去り際、男にこう告げた。
「そっちの大使によろしくな」
「……大使とは?」
「何言ってんだ、『センタリアのウォルツ』大使だよ」
「……そうか」
暗闇に照明が灯される。昼間のような明るさにヤクザたちは目を眩ませた。
「いたぞ! 捕まえろ!」
「警察だ!!」
そこには警官の制服に身を包んだ者たちが取り囲んでいた。
「サツが!? なぜここに!?」
「アニキ! 外にセンタリア人が倒れてますぜ!」
「なに!? じゃああいつらは……」
先ほど背を向けた方向を振り返る。先ほど商談にあたっていた男たちは背を向けて一目散に逃げていた。両手両脚を可能な限り大きく振るわせる。ヤクザは持ち上げたアタッシュケースの異常な軽さに気付き、蓋を開けた。中身は綺麗なまでの空であった。
「はめられた! ちくしょう、ふざけやがって!」
逃げる男たちに銃口が向けられる。怒りに震えながらも狙いを定め引鉄を引いた。
その時である。何者かが持ち手を勢いよく蹴り上げた。銃が地面へと投げ出され、スピンをかけて転がっていく。ヤクザが手を押さえながら顔を上げると、相手の顔をしっかりと捉えた。
「なっ!? あんたは……」
鋭い眼光で見つめる一人の女が立つ。ボブカットの黒髪に、白のTシャツに黒の半ズボン、スニーカーというボーイッシュな容貌。羽織っている赤いスカジャンが映える。
「冴島あかり……! な、なんでこんなところに……」
「悪いね、今日は『こっち側』なの」
一瞬にしてあかりのフックが入る。ヤクザは思いつくままに反撃するも全て空振り、それが却って隙を作った。
「見舞金は出すから、許してよ、ね!」
顔面に右ストレートが直撃し、彼は遠く弾き飛ばされる。地面に叩きつけられ、その後もバウンドを数回繰り返した。完全にのびきっている。
数分後、倉庫に多くの警官隊が駆けつけた。今度は背広姿の刑事もいる。
「こ、これは……」
「おい岡崎! 突入命令は出してねえぞ!」
「いや南田さん! 我々じゃないです」
「ああ? じゃあ誰が……」
気づけば倒れたヤクザ以外に周りは空っぽだった。先走って入っていった警官らしき者たちも気づけばいなくなっている。
「まさか……」
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