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麻美は、窓の外に降り積もり続ける雪を眺めながら、今夜は帰宅できなくなった夫のことを考えた。
『こんな日でも出社させられて、ホント哀れだわ』
観測史上初めての大雪が降るだろうという予報は昨夜からされていた。麻美は明日は休んだ方がいいのではないかと、夫に提案したが、彼は彼女に言った。
「これだから専業主婦はな。仕事のこと舐めてるだろ」
小さな通り沿いの家々の玄関前は、すでに通行出来なくなっていた。まだ午後3時だというのに、外は薄暗く、根元が雪に覆われた街灯が、雪の積もった道路をオレンジ色に照らし始めていた。
車で出社した夫は、この状況では家にたどり着くことは出来ない。近所の家の停めてある車は、もうタイヤまで雪に覆われて動かせない状態だ。
窓の外の寒々とした風景に、今夜の夫の留守を確信した麻美は、シャワーを浴びている恋人を待つために、ベッドに横になった。
汗ばんだ裸体を恋人の腕の中でくねらせながら、麻美は今夜はずっと彼とこうしていられる悦びに浸りきっていた。
彼は夫とはまるで違う。そもそも麻美に対して要求するものが違う。夫は麻美の家事や出費にとても要求が強い。もう、この家で息を吸うのさえ夫の許可が必要な気がしている。
それに比べて、彼が求めるものは、麻美自身だけだ。こうして、ベッドで裸でいてあげれば、それだけで喜んでくれる。麻美が仰向けになって股を広げれば、彼は覆いかぶさってくるし、うつ伏せになって腰を挙げたら、すぐに麻美の腰を持ち上げて揺さぶってくれる。のけぞると、乳房を激しく揉みながら、しゃぶるような口づけに没頭するのだ。
彼に抱かれていると、頭の中で考えていることが、全部彼の愛撫にかき消されて、本当の自分だけを求めてくる彼の情熱に翻弄されていく。
そんな彼との時間は、麻美の全ての悩みを分厚いベールで覆い隠していく。
まるで、闇夜に降り積もる雪のように。
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