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第142話「この女の身体の上では、おれはどんな自分であってもいい。」
惚れた女の唇は、どこまでもやさしくどこまでも甘く清春をくるわせていく。
コルヌイエホテルのスイートルームで佐江に深いキスを続けながら、自分がたぎっていくのを抑えきれない。
この女の身体の上では、おれはどんな自分であってもいい。そう思うと、清春の身体は上限のない熱を持つ。
キスを佐江の胸元に向かって降ろしながら、甘い香りを探りあてる。
エルメスのトワレ、“李氏の庭”と佐江のにおいがまじり合った香り。
世界中で、清春しか知らない匂いだ。
清春は佐江の服を押し開いて、胸元に隠しようのないキスの跡を残す。そのままシャツを脱がせようとして、清春は途方にくれた。
シャツのデザインが複雑すぎて、どこにボタンがあるのかわからない。
しばらく考えてから、清春はとうとう笑い出した。
「佐江、かんべんしてくれ。この服は、どうやったら脱がせられるんだ」
佐江はちょっと驚いたような顔をして、清春を見た。
「どうやって? ただ、ボタンをはずすだけよ」
「そのボタンが――ボタンの場所がわからないんだ。いったい、どういう構造になっている?」
「ただの服ですよ」
佐江はさっさと清春のスーツの上着をはぎとって椅子の上に投げ捨てた。
そのままベストのボタンをはずし始める。
「でも、あなたがわからないんじゃ、こちらを先にするしか、ないわね」
「——佐江!」
佐江はどんどん清春の身体を開放していく。
ベストをジャケットの上に投げ出し、ネクタイピンを放り出してから、ネクタイの結び目に指を差し込む。
そのまま一気に引き抜いた。
佐江の手の中で、硬いシルクの結び目がほろりとほどけた。
「キヨさん、やっぱり、あなた痩せたわ」
佐江はそのまま体重をかけてのしかかり、清春を椅子に座らせた。
短く切られた爪が、すうっと清春の腹から胸元まで撫で上げる。
清春は息を詰めた。
「よせよ、佐江。いったい何を……」
言葉を、佐江がキスでふさいでしまう。
小さな手が清春の身体の上を縦横無尽に動きまわると、ふれられた場所ひとつひとつに、消えようのない熱が立った。
こんな佐江は、見たことがない。
清春の上で柔らかく微笑み、目じりに差した茶色のアイラインに欲望をたたえて隠す気もない佐江は、たとえようもなく美しかった。
すさまじいまでの色気に、清春の身体が反応する。
「佐江……もうよせ、おかしくなる」
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