Act1

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Act1

掃除と片づけは別物である。 掃除をしなくてもそうめったに死ぬことはない。 ただ片づけはたまにしないと痛い目を見る。 いたっ。 何かがあたった?これは本だ、何冊か崩れてきたのは察知しキャッチ。 ガン! いっ! 一冊のキャッチしこそねた本の角が頭を直撃、単行本のソフトならまだしもハードはめちゃくちゃ痛い。ついでに小さな足に顎をけられた。 いったー! 頭を撫でながら顎を押さえ、なんで逆さまなんだか、不思議におもいながらも、むっちむちの足をつかんだ。 ぐんとまたけろうとしているのか、結構な力だ。夢の中で走っているのだろうか?まあいい。 ぽんぽんと叩いてやると静かになった。 落ちてきた本を置いた、まったくと思いながらもその本の多さにため息をつく。 辞書を開くと、掃除とは、ごみ汚れを払い除くことと書かれている。 ごみは出せばいいし、汚れは拭いて流せばいいだけ、でも片づけはそうもいかない。 部屋を眺めては、物の多さにまたため息。 エンドレスだ。 物を集めることに関していえば、別に問題はないが、収集癖は人それぞれだし、片付け綺麗に飾ってあればまた話は別だ。 ただそれを積み重ねると、手は付けられなくなる。性格もあるだろうが、なんのために集めているのか、わからずに集めている人は危険人物だ。 断捨離?一度は綺麗にしたつもり、だが気が付けばその隣の部屋が無残なことになっていて、あきらめた。 布団の周りには積み重なった本の山、本棚にはあふれそうなほどの紙が今にも落ちそうになっている。 この部屋は物置、片付けてもこのありさま、これでもきれいになったほうだ。 ブン! ふいに大きな腕と足が襲ってきた。 アッぶねーな。 幸せそうな顔。人に抱き着いて寝よう何ぞ、まあいいか。 はあ、いいねー。 つかんだ小さな足の本体を抱き上げ、大きな腕の中に収めてやった。 何かを言っている。 寝言? 「…好き」 はいはい、誰のことをいっているのか、チューだってさ。 まったく、毎度毎度、息子を抱きながら好きだ、愛してるだと、寝言じゃなくてちゃんと言ってください。まあいいけどさ。 なんで、ここで寝るかねー?自分の寝室に行きゃあいいのに。 狭い場所に何とかあるセミダブルのすのこベッド。敷いてあるのはシングルの布団だが、いつの間にか毛布で周りを囲まれ、段ボールに入った本で底上げされた場所にはいつのまにか寝るスペースができている。 ・・・この余力、違うところに使ってほしいと思うのは私だけなのだろう…はあ…。 浴衣の裾がはだけ、中のトランクスが丸見え。風邪ひくなよ。二人に布団をかけなおした。 羞恥心はどこにあるんですか?先生。 ほっぺたを伸ばしてみた。 なんだかうれしそうな顔しちゃってさ。 もういいや、朝ご飯の準備しよ。 このご時世、出版業界は大変で、スマホやタブレットで見る画面は、紙をドンドン減らしている。新聞は平成になると、ほとんど読む人がいなくなり、コンビニから消えたところも出はじめてきた。 文学賞も有名どころに入賞すれば、ああ読んでみようかと本屋に足を運んで思う人もいるかもしれないが、そんなに甘くはない。 手に取って、レジで会計してもらって、やっとホッとできる。 だいたいの人が手に取りぱらぱらとみてその場に返すわけで・・・。 あたりゃいいよ、あたりゃあ。漫画、テレビドラマ、映画になんてなったらそりゃ食って行けるでしょうけどね。でもそんなに本も売れるわけじゃないから、作家先生も大変なわけよ。 だからある程度売れていると、マスメディアや雑誌にもちょこちょこ、忘れられないように乗せてもらわないと食っていけない。 アレクサが、時間を教える。 起きてこないよな。 寝室へ戻ると、目覚ましが廊下まで聞こえている。 扉の前で一つため息、大きく息を吸い込み吐き出しっ、た。 ガラっ! 「起きろ!時間‼幼稚園!仕事!」 と布団をはいだ。 ひゃっ! うわー! 男二人がそんな声を出し、やっと起きた。目覚ましを止めた。 「もうちょっと優しくしてよ」 そう言うのはまだ二十九歳、ギリ三十路前だと言い張る作家先生。 もう三十過ぎたっちゅ―のにさ。 本名、相田康(あいだ・こう)芸名、愛田幸(あいだ・ゆき)、ペンネームはひらがなで、あいだ・ゆき。 三十二歳、何をもってまだ三十前だと言い切るのかがわからない。 「ふん、今日こそ片付けますからね、年末ですよ、年末、わかってます?テレビ出ずっぱりになるんですからね」 はいはい、といいながら、お腹をかきながらトイレに行く。 若いんだか年よりなんだか後姿を見てそう思う。 ただ前からは直視できない。いい男の代名詞にまでされるほどきれいな顔立ち。まじで神様を恨むよ、ホント天と地ほどある顔の出来は、自分の顔にコンプレックスを抱えた私にとっては、只拝み倒したくなる天使の顔なのだ。 「勇気、寝ない、ほら支度、明後日から忙しいよ」 息子、相田勇気(あいだ・ゆうき)もうすぐ四歳。 頭をがくがくさせながらも、抱き着いてくる可愛いやつ。さすが先生の息子、天使だ。 あいだ先生は大学三年の時、サークルで書いていた物語が当たり、あれよあれよという間に、出世作となった。 それからも出す作品は認められ、卒業してすぐに結婚。子供さんまでいるとは思わなかったけど、その後離婚、奥さんは子供を押し付けいなくなった。 まあこれだもんな。 腰に手を当て、その惨憺たる景色にため息をつく。 ちょっと油断すると、どの部屋も、ものすごいことになる。 ものすごいとは、ほおっておけば、その部屋はみるみる間に倉庫とかしていく。 持っていたものをその辺にポイポイと置くもんだからどの部屋も入り口はすごいものでドアが開かなくなる。 そんな調子だから同じ本や雑誌は三、四冊あたりまえ、今はきおつけている。 清掃はまた話が違う。 日本一を誇る羽田空港の清掃員さんがこう言った。 家は大したことはない、掃除は、その時にすればいい。でも清掃は責任がつく、だから細かい所まで目が行くのだと言っていた。 そう私のも清掃業務、お金をもらっているからやっている、それだけだ。 約束。 資料用の本は買わない、もらわない。衣装、もらうのはいいが古いのは売るか捨てる。 この頃は聞きもしない音楽CDもらってくるな。 好意だというがサイン入り、高く売りつけてやる。 ものばかり、一つの部屋はもう図書館だ。 二年、手に取っていないのは処分。 置きっ放しの本の下にあったゴミ、それが腐って、床に穴が開いた。 そして、食いもののごみは床に置くな。トイレで食うな! はあ。 一呼吸付きたくなる。何処を見ても物、物、物の山。いつになったら片付く事やら。 これでも二階はモノが無くなったのだ、あるのは一階だけ。 二階は危険で、多くのモノを処分させてもらい、下で生活するようにしているのだ。 「また干物―?」 「文句言わない、旬ですからね、サンマはこれから先食べられなくなるかもしれないんだよ」 「ふーん、あ、サツマイモのお味噌汁、おいしい」 さいですか。 おいしいな、と言いながら、ポヨポヨした感じでまだ眠そうな先生。食べてくれるのはいいが。何か考え事、箸が止まるのよねー。 「先生食事、考えるのは後!」 「え、あ、は、はい」 まったく。 「古い資料は処分します、本は価値のない物は売りますからね」 えー。 エーじゃない、これで見ろと差し出したのはスマホにタブレット。 口をとがらせ、探すのが面倒なんだもんという。 そういう問題じゃない、床が抜けた、それを直さなくてどうするんだと指さした。 勇気が立ち上がり、指さした場所にあった段ボールをどけ、空いた穴に向かって、うわーと言ってみている。 一階だからいいようなもの、二階だったらどうするんだ。 「よろしいですね!」 「ふみちゃん怖い」 「怖くて結構、ほら早くしてください、迎えがきます」 はいはいと急いで食べ、支度し始める人。 「ふみ―、靴下―」 「はいはい、これでいい?」 「イヤー、ライヤ―」 はいはい、仮面ライダーね。 実は私も片づけは苦手である。 でも掃除はできる。 だから、家政婦を買って出た。 買って出たはいいものの、ハ~、何やってんだかと思う今日この頃ではある。
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