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3月花曇りの空の下、庭に迷い込んだ痩せっぽっちの小さなのら猫。
生まれたばかりの僕がいた頃、母は同じ様な小さな子猫を放っておけなかったのだろう。
口際にチョビ髭の様な黒い柄があったので、チョビと名付けられ僕の家族になった。
チョビは17年間傍らで僕を見守ってきた。いつも二階の窓辺で目を細めながら日向ぼっこをし、学校から帰ってくる僕を待っていた。
チョビは猫じゃらしでちょっかいをかけても、素知らぬふりで毛繕いをし、よほど気がのらないと遊んではくれない猫だった。
夕食後トイレの換気用に僅かに開いた窓から外へ出て夜回りをし、明け方に帰ってくると僕の布団に入ってきた。そして僕の顔に頭をよせ丸くなって喉もとをゴロゴロ鳴らしながら気持ち良さげに眠っていた。
いつも程よい距離をとりながら、チョビは自分が姉であるかのように僕に接してくれた。
心細さや寂しさを感じる時は寄り添い温もりをくれた。
膝の上で丸くなるチョビに話しを聞いてもらうことで、僕は心を整理してきた。
当たり前に側にいたから、チョビが居なくなる事は考えていなかった。
居なくなったと気づいた朝、僕は泣きたくなるのを必死でこらえながら、近所中探し回った。車にはねられて帰って来られないのかもしれいと不安がよぎる。
日が落ちて暗くなっても探し続けた。
夜は僕の布団に入ってくるのを願いながら朝を待った。
帰ってこなくなり1週間がたった。
17歳の猫は最期を悟り姿を消したのかもしれない。
突然居なくなるなんて…お別れの言葉も言えない…ありがとうも言えない…。
最後にチョビの柔らかい体を抱きながら温もりを感じたかった…。
悲しみは時間と共に少しずつ薄れていった。でも時折日常の中ふとチョビを思い出すことがある。胸がギュッと切なく締め付けられることもあるし、ふわっと温かくなることもある。
死んでしまったのか、山奥で猫又になってしまったのか分からないけど、チョビの魂は今も僕の側にいるだろう。これからもずっと。
愛を教えてくれた猫のチョビありがとう。
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