Act1

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Act1

朝三時、外はまだ真っ暗。 家族を起こさないように静かに玄関へ向かう。 玄関は少し広くて、ここには着替えや、もろもろのものがあり、土間には、いろんな野菜が入ったコンテナが置かれている。 音が漏れないように、仕事に行く支度。 んー、という声に振り向くと、もうすぐ十歳になる天使が目をごしごししながら立っている。 「どうしたの?トイレ?」 こくんとうなずいた。 慌てて背中を押してトイレに連れて行く。 いてね、そこにいてね。 中から可愛い声が聞こえる。 うん、いるよ、ちゃんといるから。ちゃんとできるよね、お兄ちゃんだもんねと声をかけてあげる。 ジャーと音がした。 「できたよ」 「よし、手を洗って寝ようか」 抱っこしてやろうとするが、もう一人で台に上り手をあらいタオルで拭いた。 今何時? 時計を見る、三時十分だよ。 お仕事? 「うん、行ってくるね」と言いながら背中を押してあげる。 「きおつけてね、運転注意だよ」 「はい、きおつけていってきます、ほら寝ようね」 めくり上げた布団の中に入ろうとして彼はくるりと回ると抱き着いた。へへへと笑いながら、おなかの音を聞くように耳を当てている。 今度はどっちかな? どっちだろうね?ほら寝よう。ごそごそと入った布団をかけぽんぽんと布団を叩く。 「おばあちゃんのご飯食べに行くね」 ついでに隣で布団を蹴飛ばしているちび助の布団をかけなおした。 「うん、じゃね、お休みなさい」 「おやすみ」手をにぎにぎしてる、私も手を振ってドアを閉めた。 後ろから抱きしめられ、びっくりしてふりむいた。 そこには私の愛する人。 「起きちゃった?ごめん」 背中に顔をこすりつけ、トイレに行く、という。 はいはい、手を取り身体をまわし、彼の体をくるりと回し背中を押した。眠そうな顔でトイレから出てきた旦那様とハグをした。泣いたらよろしく。オウ、任せとけ。キスして外に出た。 隣の兄の家からも明かりが漏れ出した。 母屋の方はもう明かりが漏れている。 上を見上げると満点の星が瞬いている。西には沈みかけのお月様、東はほんのり色が付き始めている。 んーと背伸びをした。 私には三という数字が付いて回るようだ。 結婚して五年目、来年は三人目、また新しい命が生まれる。 大事にしなきゃ。 車に乗り込みエンジンをかけ、静かに車を出した。 じゃりじゃりとタイヤが石をこすって音を出す、できるだけ静かに、アスファルトに乗るとホッとして手を伸ばすラジオ。流れるのは天気予報。 今日は降水確率ゼロ%。 よし。と声を出し、十分で着くお店に向かう。 信号が赤になった。 止まっているとププと後ろの車に目をやった。 窓を開けて手を振ると、ライトで答えた。 信号が青になり、車は同じ方へと向かっていく。 今日もまた忙しい日の始まりです。 ※ 三年目のジンクスって信じる? 俺は妻の話を聞いて愕然とした。 涙を流す彼女を抱きしめる事しかできなかった。 結婚して五年。 俺は彼女を守ってやっているだろうか? 「先輩、珍しいですね、なに検索してるんですか?」 俺は、会社の事務所で、スマホをいじっていた。 昇進したとはいえ、まだまだ、下の物とさほど変わらない仕事をこなしている。 「三年目のジンクス?アー倦怠期の事ですよね」 そうなの? 「もう、奥さんと喧嘩でもしたんですか?」 そんなことはない、とスマホを後輩たちに見せた。 何ですか?これ? 子供だよ、エコー写真。 へー、四人目っすか! 奥さんがんばる―なー。 三人目だけどな。 「それじゃあ三年目のジンクスなんて関係ないじゃないですか?」 でも、彼女には何かが付きまとう、それも自分からじゃなく外から何か他の力でも働くように…。 結婚して三年目の時は、二人目が生まれて、そうだコロナ。大変だったんだよな。 「あんまり考えない方がいいですよ」 「そうそう、悪いことは引きずりますからね」 「奥さん、明るいから、案外吹き飛ばしてるんじゃないですか?」 まあ、そうなんだけどな。 「ノロケですか?ごちそうさま」 「あー俺また弁当お願いします」 自分で予約しろよ。 外出たら、間に合わないんです。私、晩ご飯、頼みます。 「おーい、自分でしろってば」 後輩は外いってきます。売場に戻ります。と事務所から出て行った。 彼女は着実に自分の夢を育てている。 泣きながら三年目のジンクスの話を聞いた。でも夢はもう人の手でつぶされたくないと、頑張ってきた。 コロナウィルスで打撃を追った飲食店が多い中、彼女たちはがんばって、店の拡大を成功させているさなかだ。 スマホで弁当の予約をすると、いつもありがとうございますのメール。 そのあとに、ラインが入った。 仕事?遅くなるの? それに後輩に頼まれたことを返した。 良かった、遅くなる? 定時で帰れる。 わかった、お仕事頑張って! そしてスタンプ。 ハートがいっぱい降ってきた。 もう、と思いながらも、机に伏せておいた。 音符のついたカラフルな車は、本社下の駐車場で店を開く。 昼と夕方。 多くのリーマンや仕事帰りの女性が使ってくれている、ありがたいことだ。 実績は、俺が頼んだ納涼会からの付き合いだったから、会社側もむげに断らなかったし、本店の方にも客が回ってくれて、まあウィンウィンの関係だしな。 ふと目に入ったスマホ。 チカチカ光るランプが着信を教えている。 ラインには“ありがとう、大好き、愛してる”の文字がいろんな絵とともに躍っていた。 大丈夫そうだ。 さあて、頑張ってやりましょうか。 俺はパソコンに向かった。 ※ 戻ってきたラインには。 三年目のジンクスなんて吹き飛ばそうぜ! 若い時の彼のパホーマンスを思い出す。 スマホを握りしめ、頑張る! そして私は笑顔を振りまくのだ。 「いらっしゃいませ!」 負けてられっかー!
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